Sr3−xSnOにおける長い磁場侵入長の観測

逆ペロブスカイト酸化物超伝導体Sr3−xSnOをミューオンスピン回転(μSR)という手法で測定したところ、ほかの超伝導体に比べて磁場侵入長が異常に長いことが明らかになりました。 Sr3−xSnOは、2016年に当研究室で発見された超伝導体です。逆ペロブスカイト酸化物では初めての超伝導体であり、トポロジカル超伝導の可能性が理論的に提案されています。超伝導状態の性質を詳しく調べるため、私たちはμSR実験を行いました。μSRとは、試料に磁場をかけた状態でスピンがそろったミューオン(μ粒子)を照射し、スピンがばらけていく時間を測定する手法です。磁場下ではスピンが歳差運動するので(止まりかけのコマが倒れる前に大きくぐるぐると回るのと同じ現象)、時間とともにスピンの向きを測定すると、このページトップの図のような振動が観測されます。図の横軸が時間で、縦軸の非対称度が正の時にスピンが前向き、負の時にスピンが後ろ向きなことを意味しています。超伝導状態では磁束が量子化されるため、試料の場所によって微妙に磁場の大きさが異なります。そのためそれぞれのミューオンが異なる周期で歳差運動することで、全体としては歳差運動の振幅が減少していくように見えます。ページトップの図では、超伝導転移温度以上の7 Kで得られた赤色のデータでは振幅が変化していないのに対し、転移温度以下の1.6 Kで得られた青色のデータでは時間とともに振幅が減少しています。 「どれだけ速く振幅が減少するか」を温度を変えながら測定したのが下の図です(横軸が温度、縦軸のσが減少の速さ)。超伝導転移温度である5 Kあたりから減少が速くなっているのが分かります。この結果から、Sr3−xSnOの超伝導がバルク由来であること(試料の大部分が超伝導になっていること)がわかりました。 振幅の減少の速さは磁束の太さ、つまり磁場侵入長と関係しています。今回のμSR実験から、Sr3−xSnOの磁場侵入長はおよそ320 nm以上と見積もられました。5 Kという転移温度を考慮すると、この磁場侵入長はほかの超伝導体よりも長いです。磁場侵入長が長いということはキャリア密度が小さいことを意味しているので、Sr3−xSnOは「キャリアは少ないくせに転移温度が5 Kもある超伝導体」と言えます。 論文は下のLinksからダウンロードいただけます。研究者でない方などのPhysical Review B誌を購読していない方は、京都大学学術情報リポジトリ 紅をご利用ください。 論文情報

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CaSb2における超伝導の発見

CaSb2では、カルシウム原子とアンチモン原子が「非共型」という特別な配置で並んでいます。 結晶中では原子は周期的に並んでいるため、ある原子が隣の原子と重なるように全体を平行移動すれば、他の原子も隣の原子と重なり、 結果的に元の構造と同じになります。 CaSb2ではこの「並進対称性」に加えて、隣の原子に向かって半分だけ平行移動し、 さらにその方向周りに180度回転させると元の構造と重なるという「らせん対称性」も持っています。 らせん対称性のように「中途半端な平行移動」を含む手続きで元の構造に戻る構造は「非共型」と呼ばれます。 CaSb2では非共型な結晶構造に起因して、波数空間上で電子状態の4重縮退が線状に連なっていると考えられています。 このように線状の縮退を持つ物質では、縮退がない物質では見られない新しい性質が予言されています。 我々は非共型な構造を持つ物質であるCaSb2が超伝導を示すことを発見しました。 図に示すように、電気抵抗と磁化率の温度依存性において、超伝導の特徴であるゼロ抵抗とマイスナー効果が観測されました。 理論的な可能性として、電子状態が持つ線状の縮退に由来する非従来型の超伝導が起きているかもしれません。 非共型の結晶構造が超伝導とどのように関係するのか、理論・実験両面からのこれからの研究が待たれます。 本研究は京都大学基礎物理学研究所の佐藤教授のグループとの共同研究です。 論文はオープンアクセスなので、下のリンクからどなたでも無料でご覧いただけます。 論文情報

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