花栗 哲郎 (Tetsuo Hanaguri)
- 所属:
- 理化学研究所・創発物性科学研究センター(創発物性計測研究チーム)チームリーダー
- 研究題目:
- (C01) 空間反転対称性を破る電子流体の新奇現象
- 領域での研究テーマ:
- 分光イメージング走査型トンネル顕微鏡によるトポロジカル絶縁体の研究
- 領域での役割:
- C班連携研究者
■ 研究室 ■ 新学術研究紹介 [206KB]
これまでの研究
実験手法の先鋭化を通して、超伝導体を舞台として創発する様々な物性の研究を行ってきました。特に、最近は、走査型トンネル顕微鏡/分光法(STM/STS)を用いて、銅酸化物高温超伝導体、鉄系超伝導体の超伝導ギャップ構造を調べています。この10年ほどの間にSTM/STSの技術は飛躍的に進歩し、今日では、原子レベルの空間分解能とサブmeVレベルのエネルギー分解能で「電子状態の地図」を作成することが可能になっています。我々が有するSTMは、世界最高レベルの安定度と分解能に加え、0.4 Kまでの極低温、11 Tまでの強磁場中で電子状態を調べることが可能で、超伝導体に留まらない様々な新奇な物質の電子状態解析ツールとして用いることができます。
本領域での研究
STM/STSを用いて、トポロジカル絶縁体表面に形成されるディラック電子の性質を解明します。理想的なトポロジカル絶縁体は、その名の通りバルクは絶縁体で導電性を示さないので、表面のディラック電子の性質が電荷輸送特性に表れることが期待されます。しかし、現実の物質では、避けがたい欠陥の混入によってキャリヤがドープされており、バルクにも電流が流れてしまうためにディラック電子の性質を調べることが困難です。
STM/STSを用いると、表面の凹凸像を原子分解能で得られる(図)だけでなく、選択的に表面の電子状態を調べることができます。また、ディラック電子の特異な性質が顕著になる磁場中での測定も可能です。さらに、STM/STSが本来持っている原子レベルの空間分解能を利用して、欠陥の周辺で電子状態がどのように変化するのか調べることもできます。これらの特徴を生かして新奇な量子現象の探索を行うとともに、磁性を持つ欠陥の効果、超伝導を誘起する元素の添加効果の微視的な解明を目指します。
略歴
- 1988年
- 東北大学工学部応用物理学科卒業
- 1993年
- 東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻 博士後期課程終了 博士(工学)
- 1993年
- 東京大学教養学部 助手
- 1999年
- 東京大学大学院新領域創成科学研究科 助教授
- 2004年
- 理化学研究所先任研究員(現 専任研究員)、現在に至る
代表論文
"Momentum-resolved Landau-level spectroscopy of Dirac surface state in Bi2Se3",
T. Hanaguri, K. Igarashi,M. Kawamura, H. Takagi and T. Sasagawa
Phys. Rev. B, 82, 081305(R) (2010).
" Unconventional s-Wave Superconductivity in Fe(Se,Te)",
T. Hanaguri, S. Niitaka, K. Kuroki and H. Takagi
Science, 328, 474-476 (2010).
"Coherence Factors in a High-Tc Cuprate Probed by Quasi-particle Scattering off Vortices",
T. Hanaguri, Y. Kohsaka, M. Ono, M. Maltseva, P. Coleman, I. Yamada, M. Azuma, M. Takano, K. Ohishi and H. Takagi
Science, 323, 923-926 (2009).
"
Quasiparticle interference and superconducting gap in Ca2-xNaxCuO2Cl2",
T. Hanaguri, Y. Kohsaka, J. C. Davis, C. Lupien, I. Yamada, M. Azuma, M. Takano, K. Ohishi, M. Ono
and H. Takagi
Nature Phys., 3, 865-871 (2007).
"A 'checkerboard' electronic crystal state in lightly hole-doped Ca2-xNaxCuO2Cl2",
T. Hanaguri, C. Lupien, Y. Kohsaka, D. -H. Lee, M. Azuma, M. Takano, H. Takagi and J. C. Davis,
Nature, 430, 1001-1005 (2004).