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■ 領域代表者からのメッセージ
〜「トポロジカル量子物理学」に向かって〜
トポロジーとは「連続的に変形することでお互いにつながっているかどうかを分類する概念・手法」です。このような数学的な概念を現代物理学の新現象に広く導入することで、現象の理解と整理を深めるだけでなく、異なる物質系での一見全く異なる現象を結び付けて現代物理学のさらなる展開を図るべく、本新学術領域研究が発足しました。この領域の研究では連続的に変形する形とは、量子力学の波動関数のもつ対称性や位相などに基づく「形」です。
トポロジカルに特徴づけられる量子現象としては、これまでに超伝導体・超流動体の渦量子化、Aharonov-Bohm効果に始まり、量子ホール効果、分数量子ホール効果、スピンホール効果などがあげられます。このようにトポロジーが物理の理解に根源的役割を果たす量子現象が、近年の物性物理学におけるひとつのフロンティアを拓いてきました。この潮流が最近大きな展開を見せています。半導体や常伝導金属に加えて、超伝導体・超流動体・絶縁体の界面での現象にもトポロジカル量子現象として、互いに相補的に分類付けられるものがあると認識されるようになり、これらを実証しようとする機運が盛り上がっています。
超伝導は電子の超流動状態ですから、超流動ヘリウムや冷却原子気体と対応づけて研究することの有効性は明らかです。しかしこれまで世界的に見ても特に実験グループが同一組織で強く連携して研究を進めることはまれでした。また電子のスピンと軌道運動の結合の強い物質系で、なおかつ空間反転の対称性の破れた舞台では、スピン三重項超伝導体やトポロジカル絶縁体といった新しい物質状態が注目されていますが、実はこれら一見全く異なる現象の間にも対応関係が示唆されています。本領域メンバーが世界を先導して、これら物質系の違いを超えた統合的な研究を推進するという強い意気込みで、5年後には「トポロジカル量子物理学」という新たな認識が生まれ育っていることを目指して研究を進めてまいります。
■ 理念と目的
本新学術領域「対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象」(H22-H26年度)の目的は、超伝導体、超流動体、絶縁体などの量子凝縮系において、様々な対称性の破れに基づくトポロジカルに特徴付けられる新奇な現象を分野横断的に研究することで、「トポロジカル量子現象」としての普遍概念を創出し、「トポロジカル量子物理学」という新たな学術領域の形成を目指すことにあります。
その研究対象は、凝縮体のかたまり「バルク」そのものの対称性破れに物理学の重要課題を含む超伝導体や超流動体、そしてトポロジカルな新奇現象が発現する舞台として「エッジ」と名付けられるそれらの表面・界面です。「バルク」で創発する対称性の破れた量子現象に対する徹底的な理解は、「エッジ」での量子現象の本質をトポロジーの観点から理解するための第一ステップといえます。
本領域では当該の各分野で世界をリードする研究者を結集し、異分野連携を格段と強化することでトポロジカル量子現象の新学術分野を一気に拡大します。これらのトポロジカル量子現象の物理は、純粋にアカデミックな研究対象としての価値に留まらず、スピントロニクスや量子コンピュータなど、将来の高度な応用科学にとっても重要な基礎となることが期待されます。
本領域で対象にする主な物質系は、(A) 時間反転対称性の破れた超伝導体、(B) スピン三重項超流動体、(C) 空間反転対称性の破れた超伝導体・絶縁体で、それらに太い横糸を通す形で(D) トポロジカル凝縮体の量子現象の理論を展開します。このために計画研究A01, B01, C01, D01の各班を設けるとともに、公募研究によって研究の一層の進展を目指します。
■ 計画研究の具体的な目標
- □ トポロジカル量子現象の物理構築にむけて、以下の実証的な研究成果を目指します。
- A
- ルテニウム酸化物超伝導のスピン三重項ベクトル秩序変数の確定。
- A
- 時間反転対称性を破る超伝導状態特有の、接合系における奇周波数状態に基づく近接効果・量子干渉効果の実証。
- B
- 時間反転対称性を破る超流動3He-A相の固有軌道角運動量とエッジ流の検証。
- B
- スピン三重項超流動体3Heの各相での表面アンドレーエフ束縛状態の解明。
- C
- 結晶構造が空間反転対称性を破る(NonCentroSymmetric:NCS)超伝導や電場誘起表面超伝導の、スピン一重項・三重項混合状態とスピン軌道相互作用の役割解明。
- C
- トポロジカル絶縁体のヘリカル表面状態の存在の実証と、物性の解明。
- □ 上記の研究を通じて、以下の分野横断的成果を目指します。
- D
- 対称性の破れた量子凝縮体の表面・界面に自発する電荷、質量、スピンなどの流れを実証するとともに、トポロジカル量子現象の典型例としての普遍概念を構築。
- D
- 界面・表面状態に特有の準粒子励起の系統的理解を深め、トポロジカル量子現象に含まれる普遍的な数理構造を解明。
■ 領域発展の取り組みと運営
トポロジカル量子現象の物理は、異分野交流・連携によって真のシナジー効果が最大限に発揮できるフェイズにあります。本領域では「総括班」が一体となって領域運営の様々なプログラムの遂行にあたります。分野横断研究を推進するため、また新学術領域の人材を育成するための方策として、特に以下の取り組みを行います。
《1.連携による分野横断研究とアナロジーの追求》
スピン三重項対凝縮状態、エッジ流、スピン軌道相互作用などトポロジカル量子現象理解の鍵となる物理概念について、異なる物質系を扱うエキスパートが密な連携を図ることで新学術領域を切り拓きます。これら異なる物質系での現象は個々の機構解明の問題として独立に研究されてきました。本領域では、「トポロジカル量子現象」という共通の視点のもと、領域内異分野グループ間の活発な共同研究や、テーマを絞った「集中連携研究会」の開催などの分野横断的連携活動を推進する研究体制を敷きます。さらに物性物理学の枠を超えた概念導入も図っていきます。その結果、普遍的理解だけでなく、個々の研究分野に新たな視点をもたらすことをめざします。毎年の「領域研究会」(H24、H26年度は国際会議として開催予定)は、分野横断的研究成果を最大限に反映できるようなセッションからなる枠組みで行います。
《2.新学術領域を担う若手人材育成を通した研究融合》
「若手相互滞在プログラム」や「若手国際会議開催」などによって、若手研究者間での直接的な深い交流を通じて異分野間の研究融合を触発します。そして分野横断型の研究視点と国際性をもった人材を育成し、トポロジカル量子現象の追求という共通目標に関して国際的・学際的視野の醸成を促進します。