Topological Quantum Phenomena in Condensed Matter with Broken Symmetries

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メンバープロフィール

押川 正毅 (Masaki Oshikawa)

所属:
東京大学(物性研究所)教授
研究題目:
カイラルp波超流動体の固有角運動量とエッジ流の解明
領域での役割:
D03班公募研究代表者
■ 研究室 ■新学術研究紹介 [1289KB]

これまでの研究

 物性物理にあらわれる問題で、統計力学の観点からも興味深い基礎的な問題を中心に幅広く研究を行ってきました。その多くは、トポロジーとも密接に関連しています。たとえば、大学院生時代の1992年にはじめて出版した論文では、KennedyとTasakiによってS =1量子スピン鎖について見出された、隠れたZ2×Z2対称性を一般のスピンに拡張しました。その結果、S が奇数のハルデンギャップ相では隠れた対称性が自発的に破れていること、一方S が偶数のハルデンギャップ相では隠れた対称性が破れていないことを見出しました。当時はその意味は十分に理解されないままだったのですが、近年になって、トポロジカル絶縁体の研究から「対称性によって保護されたトポロジカル相」(Symmetry-Protected Topological Phase、SPT相)の概念が確立し、(相の存在自体はトポロジカル絶縁体以前から知られていた)S が奇数のハルデンギャップ相もその一例であることがわかりました。最近の研究で、1次元量子スピン系におけるSPT相の系統的な解明を行い、またS が偶数のハルデンギャップ相は実際に自明な相であることを示しました。 この他、周期的な格子上の量子力学的な多粒子系について、粒子密度と基底状態の縮退の間の一般的な関係や、基底状態のトポロジカルな縮退と素励起の分数化の間の一般的な関係などを導いています。
 また、場の理論の物性への応用にも中心的な課題として取り組んでおり、1次元量子反強磁性体における電子スピン共鳴の理論、3本の1次元量子系の接合の理論などを構築しました。最近では、素粒子物理学者と共同で、アクシオン場の理論に基づき磁性イオンをドープしたトポロジカル絶縁体における電場下での不安定性を論じました。現在は、トポロジカル秩序相を含め量子多体系の興味深い相を、エンタングルメント・エントロピーに代表される情報科学的な量で特徴づけることにも強い興味を持って研究しています。

本領域での研究

 新学術領域では、カイラル超流動体の固有角運動量問題についての研究を中心に取り組みます。カイラル超流動体では、フェルミ粒子が作るクーパー対が角運動量を持つため、全体としても角運動量を持つことが期待されます。しかし、全てのフェルミ粒子がクーパー対を形成すると考えるかどうかによって異なる結論が得られてしまいます。これまでの長年の研究によっても、その矛盾は完全には解消されませんでした。
 本研究では、正当性の不明な近似はできるだけ排して、保存量に着目した定式化により正確な計算を可能にします。まずは理想的な状況でカイラル超流動体の全角運動量について信頼性の高い結果を求めます。また、有限の大きさの系の境界に出現するエッジ状態と超流動体の全角運動量の関係も明らかにします。
押川 正毅  本領域での研究 イメージ 図: カイラル超流動体の全角運動量。フェルミ粒子が全てクーパー対を作っているという描像で全角運動量は常に正しく与えられるか?

 液体ヘリウム3における固有角運動量問題については、本領域のB01班で実験的な研究が進められています。また、この問題はA01班で精力的に実験研究が進められているSr2RuO4について、その超伝導状態におけるエッジ流の問題とも関連する可能性があります。理論的な研究の進展を踏まえて、これら実験グループとの協力も図りたいと考えています。

 公募研究としてはカイラル超流動体の固有角運動量の問題を中心に行いますが、トポロジカル量子現象一般に関しても新学術領域の他のメンバーと積極的に交流していくつもりです。

その他

 物理の研究にはもともと国境はありませんが、トポロジカル量子現象については特に世界中で活発に研究が進められており、国際的な競争および共同研究が盛んです。私の研究も多くは国際的な共同研究として行っていますが、それを通じて日本の若手研究者の活性化にも寄与したいと思っています。

略歴

1986年
東京都 私立開成高等学校 卒業
1990年
東京大学理学部(物理学)卒業
1994年
東京大学理学系研究科博士課程(物理学)中退、東京大学工学部物理工学科助手
1995年
カナダ ブリティッシュ・コロンビア大学 キラム記念博士研究員
1998年
東京工業大学理工学研究科 物性物理学専攻 助教授
2006年
東京大学物性研究所 教授、現在に至る

主な受賞

2003年
久保亮五記念賞、2005年 電子スピン学会奨励賞、2008年 日本学術振興会賞

代表論文

"Ground-State Energies of Spinless Free Fermions and Hard-Core Bosons",
W.-X. Nie, H. Katsura, and M. Oshikawa,
Phys. Rev. Lett. 111, 100402 (2013).

"Quasiparticle statistics and braiding from ground-state entanglement",
Y. Zhang, T. Grover, A. Turner, M. Oshikawa, and A. Vishwanath,
Phys. Rev. B 85, 235151 (2012).

"Instability in Magnetic Materials with a Dynamical Axion Field",
H. Ooguri and M. Oshikawa,
Phys. Rev. Lett. 108, 161803 (2012).

"Entanglement spectrum of a topological phase in one dimension",
F. Pollmann, A. M. Turner, E. Berg, and M. Oshikawa,
Phys. Rev. B 81, 064439 (2010).

"Topological degeneracy of non-Abelian states for dummies",
M. Oshikawa, Y. B. Kim, K. Shtengel, C. Nayak, and S. Tewari, Ann.
Phys. 322, 1477 (2007).

"Fractionalization, Topological Order, and Quasiparticle Statistics",
M. Oshikawa and T. Senthil,
Phys. Rev. Lett. 96, 060601 (2006).

"Systematic Derivation of Order Parameters through Reduced Density Matrices",
S. Furukawa, G. Misguich, and M. Oshikawa,
Phys. Rev. Lett. 96, 047211 (2006).

"Topological Approach to Luttinger's Theorem and the Fermi Surface of a Kondo Lattice",
M. Oshikawa,
Phys. Rev. Lett. 84, 3370 (1999).

"Low-Temperature Electron Spin Resonance Theory for Half-Integer Spin Antiferromagnetic Chains",
M. Oshikawa and I. Affleck,
Phys. Rev. Lett. 82, 5136 (1999).

"Magnetization Plateaus in Spin Chains: "Haldane Gap" for Half-Integer Spins",
M. Oshikawa, M. Yamanaka, and I. Affleck,
Phys. Rev. Lett. 78, 1984 (1997).

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