中原 幹夫(Mikio Nakahara)
- 所属:
- 近畿大学(理工学部)教授
- 専門分野:
- 理論物理学,数理物理学
- 研究題目:
- (B01) スピン三重項超流動体の新奇界面現象
- 領域での研究テーマ:
- トポロジカル凝縮系の理論研究
- 領域での役割:
- B班分担者
■ 研究室
これまでの研究
美しい数学の理論は常にそれを具現化する物理系を持っていると考えます。特に私は研究テーマにおいて,物理系における幾何学的およびトポロジカルな美しさを求めてきました。私は数学的なテーマで研究をすることが多いのですが,上に述べたように,常にその物理系における実現を念頭に置いて研究を進めてきました。
1971年に発見されたp波超流体の超流動ヘリウム3における渦や壁の研究を行ってきました。私の修士論文では,回転超流動3He-Aのテクスチャを研究しました。そこでは,回転超流動における渦糸格子は,通常の芯をもった渦糸ではなく,Mermin-Ho渦とよばれる芯を持たない渦から構成されることを示しました。我々の提唱した渦糸格子は後にNMRのスペクトルの解析を通して実験的に確認されています。
我々はアルカリ原子のBECにおける渦糸の生成も研究しました。我々の提案では,外部磁場を断熱的に制御することにより,Berry位相を利用して渦糸のない状態に渦を実現するような位相をプリントすることができます。その結果,渦糸の巻き数は,Fを原子の超微細スピンとすると2Fとなります。この渦は世界中のいくつかの実験室で実現しています。
私は過去10年以上,量子コンピュータの研究をしてきました。しかし,様々な障害により,実用的な量子コンピュータの実現には高い壁があることがわかってきました。この壁を乗り越える可能性のある提案の一つとして,Majorana粒子の組み紐操作を利用したトポロジカル量子コンピュータがあります。我々は冷却フェルミ原子のp波超流体の渦にトラップされたMajorana粒子を用いたトポロジカル量子コンピュータを提案しました。そこではこれらのMajorana粒子を用いて量子ゲートを実現する方法を与えました。トポロジカル量子コンピュータの他の候補であるp波超伝導体や格子模型にも興味を持って研究しています。
本領域での研究
現在超流動3Heにおける半整数量子渦の研究をしています。この渦は,いわば芯のある渦と一様なテクスチャの重ね合わせになっています。我々は磁場中の回転薄膜3Heにおいて半整数量子渦が安定に存在する条件を求めました。現在,回転数をさらに大きくしたときにできる半整数量子渦の渦糸格子の研究を行っています。また,トポロジカル絶縁体,Grapheneなどの興味ある物理系や,トポロジカル相転移などの現象,トポロジカル量子コンピュータの実現に向けた研究を行いたいと思います。
その他
物理学の分野にかかわりなくトポロジーや幾何学が重要な役割を果たすテーマに興味を持って研究してきました。最近はさらにリー群の表現など代数構造にも興味を持っています。共同研究のお誘いなど歓迎します。
略歴
- 1971年
- 広島私立修道学園高等学校卒業
- 1976年
- 京都大学理学部(物理学)卒業
- 1978年
- 京都大学大学院理学研究科修士号取得(超流動ヘリウムの研究)
- 1980年
- 南カリフォルニア大学物理学科リサーチフェロー
- 1982年
- 京都大学大学院理学研究科博士号取得(ポリアセチレンの研究)
- 1982年
- ロンドン大学キングス校数学教室留学
- 1983年
- アルバータ大学物理学教室博士研究員
- 1985年
- サセックス大学物理学教室博士研究員
- 1986年
- 静岡大学教養部助教授
- 1990年
- サセックス大学物理学教室客員教授
- 1993年
- 近畿大学理工学部助教授,1999年教授,現在に至る
- 2001年
- ヘルシンキ工科大学TEKES客員教授
- 2002年
- ヘルシンキ工科大学客員教授
代表論文
"Geometric Aspects of Composite Pulses",
T. Ichikawa, M. Bando, Y. Kondo, and M. Nakahara
Phil. Trans. R. Soc. A, 370, 4671-4689 (2012).
"Dynamical invariants for quantum control of four-level systems",
Utkan Güngördü, Yidun Wan, Mohammad Ali Fasihi, M. Nakahara
Phys. Rev. A 86, 062312 1-9 (2012).
"Half-Quantum Vortices in Thin Film of Superfluid 3He",
K. Kondo, T. Ohmi, M. Nakahara, T. Kawakami, Y. Tsutsumi, and K. Machida,
J. Phys. Soc. Jpn., 81, 104603 1-5 (2012).
"Quantum Computing with p-Wave Superfluid Vortices",
T. Ohmi and M. Nakahara,
J. Phys. Soc. Jpn. 79, 104602 1-5 (2010).
"Exact solutions of the isoholonomic problem and the optimal control problem in holonomic quantum computation",
S. Tanimura, M. Nakahara and D. Hayashi,
J. Math. Phys. 46, 022101 1-15 (2005).
"Topological vortex formation in a Bose-Einstein condensate under gravitational field",
Y. Kawaguchi, M. Nakahara and T. Ohmi,
Phys. Rev. A 70, 043605 1-6 (2004).
"Continuous creation of a vortex in a Bose-Einstein condensate with hyperfine spin F = 2",
Mikko Möttönen, N. Matsumoto, M. Nakahara and T. Ohmi,
J. Phys.: Condens. Matter 14, 13481-13491 (2002).