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江口のモントリオール出張日記

カナダ ケベック州モントリオールで5月2日から5日に行われた CIFAR Quantum Material Summer School 2010 および、5月5日から9日に行われた CIFAR Quantum Material Program Meeting に当研究室PDのD.C.Peetsさん、D1の北川俊作くんとともに参加しました。

日程

滞在の日程はこんな感じでした。

5/ 2(日) 成田国際空港 発 (17:00) → トロント・ピアソン国際空港 着 (15:50)

    トロント・ピアソン国際空港 発 (18:00) → モントリオール・ピエール・エリオット・トルドー国際空港 着 (19:11)

5/ 2(日)- 5/ 5 (水) Summer School @McGill大学 

5/ 6 (木)- 5/9 (日) Main Meeting@Hotel Hyatt Regency Montreal

5/12 (水) モントリオール・ピエール・エリオット・トルドー国際空港 発 (10:00) → トロント・ピアソン国際空港 着 (11:15)

    トロント・ピアソン国際空港 発 (13:15) → 成田国際空港着 (翌15:00)

CIFARとは

The Canadian Institute for Advanced Researchの略で、 主にカナダ国内メンバーによる、研究促進を目的とした組織のことです。 CIFARでは宇宙、環境、遺伝子から社会科学に至るまで、様々な最先端の研究プロジェクト が進行中ですがその中の一つ"Quantum Materials"という固体物理学の研究領域があり、 このプログラムのメンバーに当研究室の前野教授が含まれています。

メンバーは主にカナダ国内の大学での教授陣で構成されており、毎年5月には Main Meetingが行われます。また同時期に学生が主体となって運営されるSummer Schoolが 開催され、Main Meetingでの発表を理解する為に必要となる基礎部分の講義を行ってもらえます。 主な日程は学生向けのSummer School3日間+Main Meeting3日間となっており、Summer Schoolは プログラムメンバーの研究室の学生を対象として開催されます。当研究室からは毎年2名程度参加させて 頂いています。

モントリオールについて

モントリオールはセントローレンス川中州に発達したカナダ第2、ケベック州の最大の都市でニューヨークのほぼ真北500kmあたりに位置します。 またパリに次ぐ世界2番目に大きなフランス語圏の都市です。ケベック州はカナダで唯一フランス語のみを公用語とする州であり、 これには複雑な歴史背景があります。実際に話をしてみて思ったのは、ケベックの人達は自分たちがフランス系民族であることに誇りを持って おられ、そしてこの街が本当に好きなのだということです。 モントリオールは娯楽の街としても知られ、アメリカに比べ酒類の規制が緩いため週末には多くの若者が訪れるのだとか。 街中には歴史的建造物の他に、博物館、美術館、劇場、カジノやスタジアムがあり、あらゆる娯楽が楽しめます。 かの有名なシルクドソレイユはモントリオール発祥だそうです。

出発

成田
出発前、成田空港にて一服。プリン食ってます。頼みの綱Peetsさんは先に現地入りしています ので北川くんと二人でモントリオールを目指します。
トロント
約12時間かけてトロントに到着&とりあえず記念撮影。 空港の標識はすべて2カ国語表示でした。
モントリオール
無事にモントリオール空港でPeetsさんと合流。空港バスでホテルを目指します。 ケベック州のバスは運賃が時間制で、制限時間内ならどのバスに何度でも乗れました。
ホテル
ホテルに到着!とても広い部屋で、キッチン付です。別室で書斎のような部屋もありました。
ホテルの部屋
アートがいい感じの地下鉄の入り口。残念ながら到着時刻の都合でWelcome Partyは参加出来なかったのでPeetsさんに連れられて Summer School参加者が2次会をやっているBarに行き、夕食を摂りました。

Summer School

今回のSummer Schoolはモントリオール市街地から近いMcGill大学で行われました。 McGill大学は、毛皮貿易で財を成したJames McGillの遺産をもとに1821年に設立された、カナダ最古の大学だそうです。 「北のハーバード」と呼ばれるほどの名門大学なのだとか。

マギル
原子核の存在を実証した、かの有名なラザフォードの研究室があった建物だそうです。今は図書館になっています。

~5月3日~

講義は英語で行われます。我々の研究室では修士に進学した直後から英語での発表や議論を通して、多くの練習機会が与えられます。 その甲斐あって、なんとか講義についていくことが出来ました。研究室の教授、先輩方に感謝です!

初日朝
あいにくの雨でした。昨日買った空港バスのチケットが24時間有効だったので、これを使って地下鉄でMcGill大学を目指しました。
122系
初日午前中はアメリカ Maryland大学のJohnpierre Paglioneさんによる、鉄系超伝導の講義でした。 当研究室PDの中井さんのデータが引用されていました。
講義室
休憩時間中に撮った講義室の写真です。日本の大学の講義室と同じような感じでした。
coldatom
続いてカナダ Sherbrooke大学のAndre-Marie Tremblayさんによる、冷却原子気体の講義。
corbotte
続いてカナダ McMaster大学のJules P.Carbotteさんによる、高温超伝導基礎理論の講義。 非常に特徴のある話し方が印象的な方で、超伝導のEliashberg理論に関する重要な研究を された方らしいです。さしずめカナダ物理界の「名物教授」といったところでしょうか。
ground
雨も上がり、昼食会場に行く途中のグランドを撮った写真です。趣のある建物の向こうは高層ビル街。ケベック州経済の中心地です。
nicol
午後はカナダ Guelph大学のElisabeth J.Nicolさんによる、超伝導基礎の講義。 超伝導の基本メカニズムや非従来型の超伝導の特徴を理論、実験の両面から非常に明確に 説明して下さいました。図は当研究室石田教授のデータで、前野教授が発見した超伝導体 Sr2Ru04がスピン三重項超伝導体であることを証明した有名な論文からの引用です。
lupien
この日最後はカナダ Sherbrooke大学のChristian LupienさんによるSTM(走査型トンネル顕微鏡)の講義。 STMは原子を直接観察できることで有名ですが、基本原理や装置の詳細を丁寧に解説して下さいました。
poutine
1日目の講義が終わった後は、Peetsさんに連れられてケベック料理を食べにモントリオール旧市街へ。写真右はPeetsさんで、写真左は毎年研究室のメンバーがお世話になっているカナダ British Columbia大学PDの和達さんです。当研究室卒業生で現在アメリカ Columbia大学D1の岡本くんも一緒でした。写真に写っている料理はPoutineというケベック料理で、フライドポテトにソースとチーズをかけたものです。

~5月4日~

前日からさらに進んだ内容の講義です。

taillefer
具体的な実験法や装置の解説、物質比較など盛りだくさんの内容でした。写真はカナダ Sherbrooke大学教授で 今回のMeetingの主催者であるLouis Tailleferさんによる超伝導に関する包括的な説明です。
裏山
2日目講義の後は現在McGill大学でPDをやっておられるPeetsさんの友人に案内してもらい、大学裏山の散策をしました。 高台からはモントリオールの街が一望できました。
リス
山でたくさんのリスを見かけました。カナダでは当たり前の風景だそうです。 またタンポポがたくさん咲いていました。すべてセイヨウタンポポでした。

~5月5日~

BCS-BEC crossoverの話と、STMによる高温超伝導体表面の観察の話の他に、今年3月に当研究室で学位を取られた高津さんが 研究しておられたフラストレート磁性体の話もありました。

kim
カナダ Tronto大学のYong Baek Kimさんの、フラストレート磁性体を始めとするスピン液体に関する様々なトピックの紹介です。 スライド中にNeelとLandauが写っていますが、スピン秩序の話は1930年代から続く非常に造詣の深いトピックです。
davis
アメリカ Cornell大学のSeamus Davisさんの、世界最高精度のSTM(走査型トンネル顕微鏡)作成の話は圧巻でした。
ram
Summer School最終日の夜は参加者全員がDinnerに招待されました。写真はメインディッシュのラムステーキです。 隣に座ったMITの大学院生さんと話をしたのですが、聞き取りにくかった! 横にいた岡本くんは全然大丈夫だったようで、彼によると「アメリカ独特の話しのリズム」だそうです。 まだまだ修行が必要と悟りました。この院生さんが「日本からは実験の論文は多く出るけど、理論はあまり無いね」とおっしゃられました。 そうでもないと思うけど・・・。
maria
夕食後、世界の女王マリア大聖堂の前で岡本くんと記念撮影。このあと「IGA」という北米大手のスーパーでビールを買い、ホテルで和達さん、岡本くんに 物理の他に国外で研究することなどのいろいろな話を聞かせて貰いました。 異国の地で立派に研究されているお二人を心より尊敬します。

Main Meeting

~5月6日~

ホテルの会場で行われました。Summer Schoolでお世話になった講師の方々を始め、多くの研究者が発表されました。 午後3:00以降はポスター発表で、当研究室からは前野さんが2つ、Peetsさん、北川くん、僕が各1つ発表しました。

会場
休憩時間中に撮ったMeeting会場の写真です。記者会見場のよう?
ウラン
図はHidden orderで有名なURu2Si2の理論の発表です。午後のポスターセッションでこれの実験の発表がありました。 フランスの女性の方でしたが、彼女は「日本は女性の地位が低いから、日本へは研究しに行きたくない」とおっしゃられました。 誤解があると思いますが・・・。
前野さん
午後のポスターセッションで発表する前野さんです。Sr2RuO4はもちろんのこと、今年3月に卒業された高津さんのPdCrO2単結晶の研究 も大盛況だったようです。
外
ポスター発表中の北川くん。同じ日にこのポスターの内容の投稿論文acceptのお知らせが来たそうです。おめでとう北川くん!
外
ポスター発表後に、会場の窓から撮ったホテル内部の写真です。大きなビルの下階にショッピングモールが併設されることが 多いとのことです。ちなみに夜7時ですが、さすが高緯度地域!明るいです。

~5月7日~

mott
冷却原子気体において実現される、超流動-モット絶縁体転移の話です。レーザー冷却された原子中で起こる転移がとても 興味深いということは分かったのですが、難しかったです。
断熱
2日目のポスター発表は諸事情により行くのが遅れてしまったので人がほとんど居ませんでした。なのでゆっくりポスターを 見て回りました。写真はCambridge大学の大学院生さんのポスターで、なんと断熱消磁法のみで10mKまで冷却できる冷凍機を 作成中だそうです。このポスターの主は・・・
ケンブリッジ
非常に熱心な方で、Summer School中に北川くんにNMRの原理を教えてもらっていた方です。今年の2月にCambridge大学で セミナーを行った当研究室の中村さん、谷口さんの発表も聞いておられたそうです。世界は広いが世間は狭い?
インド料理
この日の夕食はTronto大学の方々とモントリオールの新市街にインド料理を食べに行きました。通りに日本車多いです。

~5月8日~

磁性
この日はフラストレート磁性の話題がメインでした。日本でも盛んに研究されている物質です。
昼食
食事中でも前野さんは熱心に議論をされていました。前野さんの知名度は本当に高く、僕たちは自己紹介のとき 「We belong Yoshi. Maeno's group.」と言えばほとんど全ての人に分かってもらえ、助かりました。 前野さんは本当にいつ見ても仕事をされています。この勤勉さは見習わなければならないと思います。
昼食
最終日のポスター発表は人はまばらでした。僕たちは和達さんを捕まえて、和達さんのされている研究について 詳しく教えてもらいました。改めてスゴい方だと思いました。ポスターも見やすいので参考にさせて頂きます。
僕の
僕のポスターの説明をする岡本くん。・・・完全にノリで撮ったものなのでスルーして下さい。 見に来て下さった方、そして興味を持って下さった方、ありがとうございます。論文頑張って仕上げます。
モントリオール出身のセリーヌ・ディオンが結婚式を挙げたことで有名な、ノートルダム大聖堂+笑顔の北川くんです。 この後、ガイドブックにも載っている有名な高級フランス料理店「ボナパルト」で前野さん、和達さんと共に夕食を摂りました。 ジーンズOKな店で助かりました。
翌日撮った、ノートルダム大聖堂の内部です。圧巻でした。

モントリオール観光~5月9日~

会議も無事終わり、最終日はモントリオール観光です。

Peetsさんおすすめの、地元No.1サンドイッチ店で昼食です。
名物のスモークドビーフのサンドイッチ。圧巻でした。
その後北川くんとは別行動。北川くんはLouis Tailleferさん一押しの、シルクドソレイユ「TOTEM」を見に行きました。僕とD.C.Peetsさんは12日に行きました。 僕の「What is CIRQUE DE SOLEIL?」という発言は周囲の人間(日本人含む)を驚愕させてしまいました。何にしても圧巻でした。
僕とD.C.Peetsさんはノートルダム・ド・ボンスクール教会見学へ。この教会は博物館にもなっており、北米で最も古い教会のひとつだそうです。
この日の夕食は北川くんたっての希望で現地のマクドナルドへ。アメリカンサイズという僕たちの期待は見事に裏切られ、限りなく日本のに近いQuarter pounder cheeseセットでした。

ケベックシティ

北川くんの帰国を見送った後、僕とPeetsさんは休暇をとり、ケベックシティに行きました。ケベック州は北米でフランス語のみが公用語の唯一の州で、アメリカ大陸入植時代における複雑な歴史に翻弄された地域です。ケベックシティはその最たる象徴であり、ケベック人はフランスを起源とする彼ら独自の文化をとても大切にしているそうです。今日ではケベックシティはユネスコの世界遺産に登録されている美しい街です。

鉄道
世界の車窓から~♪ カナダのVIA鉄道で3時間、モントリオールからケベックシティに向かいます。 鉄道の上に電線が張っていないのが気になってPeetsさんに訪ねたところ、これは電気ではなく、 ディーゼルエンジンで走っているそうです。てことは電車とは呼ばない?
laval
ケベックシティ滞在中の宿泊はLaval大学の学生寮。大学休暇中に学生寮を宿泊施設として安く貸し出すのはこちらでは一般的なことだそうです。
城塞
北米唯一の城塞都市であるケベックシティ。
アブラハム平原
1759年にこのアブラハム平原で激しい戦闘があり、これによりケベックの支配権はフランスからイギリスに移ったまま現在に至るそうです。
提督の散歩道
城壁から見下ろしたセントローレンス川。壁づたいにのびるテラスは「提督の散歩道」と呼ばれます。
シャトーフロントナック
夕日に染まるフェアモント・ル・シャトー・フロントナック。1893年に建てられた世界最高級ホテルで、 第二次世界大戦中にチャーチルとルーズベルトの会談が行われた場所だそうです。このホテルに住み着いた使用人 の幽霊、という設定のガイドさんがいて、内部見学ツアーがあり中を見せてもらえました。まるでヨーロッパ宮殿のような内装でした。
フランス料理
街角のフランス&ケベック料理店。お店の主人は陽気な方でした。ここもガイドブックに載っている名店です。
シャトーフロントナック
シャトー・フロントナックの夜景です。
州議事堂
城壁のすぐ傍にある、ケベック州議事堂です。
商店街
城塞の外、川沿いにある、北米最古の商店街です。魔女の宅急便で見たような・・・。
シャトーフロントナック
対岸のレヴィという街から眺めた、ケベックシティの夜景です。
滝
ケベックシティ郊外にあるモンモランシー滝です。冬には滝全体が凍りつき、アイスクライミングを楽しむ人で 賑わうそうです。
道路
北米にありがちな、廃線路とバスの待ちぼうけ。いい天気だなー♪
シャトーフロントナック
最後にもう一度、シャトー・フロントナックです。前のテラスは、夏の観光シーズンは人と大道芸人でいっぱいだそうです。

終わりに

あっという間の12日間でした。海外へ出た経験がほとんどない僕にこのような機会を与えて下さったことを誠に感謝しています。 また現地の人たちも、まだうまく喋れない英語を丁寧に聞いて、答えて下さいました。皆様の懐の深さにも感謝しています。 今回の旅は、研究者として生きていくとはどういうことかを再考するきっかけを与えてくれたと思います。そして自分に足りない ものを痛感した旅でもありました。僕も、研究に専念できる環境がようやく整った今を大切に、精進していこうと思いました。

この会議の期間中、UBCの和達さん、Columbia大学の岡本くんには特にお世話になりました。 本当にありがとうございました。

モントリオールは歴史だけでなく、「人生楽しく」のモットーとするエンターテインメント・シティでもあるとのこと、 何度来ても飽きないところだと思います。ケベックシティもしかりです。 お店の店員さん全員が英語もフランス語も上手に使いこなしていたのは驚きましたが、フランス語を貫き、歴史と伝統を重んじる姿勢は 非常に好感を持てました。機会を作り、また来たいと思いました。フランス語が話せたらもっと陽気で、かつ奥深い一面を見れたと思います。
飛行機
あっという間でしたが、お世話になりました!さらばケベック!
ビタミンウォーター
岡本くん曰く「ニューヨークの巷で話題の」ビタミンウォーター(~300円)。爽やかなイメージを演出してみました。 この後、このビタミンウォーターは空港のセキュリティチェックで没収という悲しい運命をたどりました。