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固体電子系では、構成する電子間の相互作用により低温で相転移を経て、基底状態が何らかの秩序状態となることはよくあります。 この相転移温度は、圧力、磁場、化学置換などのチューニングパラメーターを制御することでしばしば絶対零度(T = 0)にまで下がります。 この絶対零度で起こる相転移を量子相転移と言い、相転移が2次(転移に伴い秩序変数が連続)である場合は、転移点を特に量子臨界点(QCP)と言います(図1)。
量子臨界点近傍では、熱ゆらぎによって支配される通常の相転移と異なり、量子力学的相互作用の拮抗による量子ゆらぎの効果が顕在化します。そのために種々の物理量に系の特徴を反映した非自明な温度依存性、パラメーター依存性が現れます。 この性質は、通常の金属状態(フェルミ液体)に対して非フェルミ液体と呼ばれます。(ただし、多くの場合は「非フェルミ液体」であってもフェルミ液体の準粒子の描像は成り立ちます)。 例えば通常の金属状態では、電気抵抗はΔρ = ρ(T) − ρ0 ~ T2、電子比熱係数はΔC/T = 一定のように振る舞いますが、 量子臨界点の近傍ではこれらと異なる温度依存性が観測されます。このような量子臨界点近傍で観測される、強い電子相関に起因する物理現象を量子臨界現象と呼んでいます。
量子臨界現象の興味深い点の1つとして、量子臨界点の近傍でしばしば発現する超伝導が挙げられます。 このような超伝導は、量子ゆらぎが対形成に必要な電子間引力に密接に関係し、超伝導対称性も従来のBCS理論と異なる可能性があり、現在でも重要な研究テーマの一つとなっています。
以下では量子臨界現象に関係のあるいくつかのトピックを紹介します。いずれも当研究室で研究を行ってきたテーマです。
量子臨界点の一例として、鉄系超伝導体BaFe2(As1-xPx)2の反強磁性量子臨界点を紹介します。 この系は、ヒ素が100%ある場合(BaFe2As2)は低温で反強磁性相となりますが、 ヒ素をリンに置換すると反強磁性が抑制されて超伝導が生じます。 x = 0.33付近で超伝導転移温度が極大となり、それは30 Kを超えます。
当研究室でNMRを行った結果、超伝導転移温度が増強される付近に反強磁性量子臨界点が潜んでいる可能性が高いことが明らかとなりました。NMRでは「反強磁性ゆらぎ」を測定することができ、x = 0.33でそれが絶対零度で発散する傾向が見られたので、 この濃度で反強磁性量子臨界点が存在すると考えられます。(実際には超伝導によって量子臨界点は隠されます)。 超伝導がこの濃度で増強されるので、反強磁性の量子臨界点と超伝導が密接に関連していることがうかがえます。
詳しくは「最近のトピックス」の記事をご覧ください。
金属強磁性の場合,量子臨界点の形態が他の秩序相とは異なることが知られています。上記の反強磁性の場合はゼロ磁場に量子臨界点があるとされますが, 強磁性の場合はそれが有限磁場に出現し,ゼロ磁場では二次相転移ではなく一次相転移で強磁性が消失することが期待されています。そのため,超伝導と量子臨界点の関係が他の場合とは異なると考えられます。 また,超伝導は一般に磁場に弱い性質を持つので,強磁性の近傍ではなかなか超伝導が現れません。
実はウラン系の化合物で超伝導と強磁性が共存することが知られています(強磁性超伝導体)。その中でもUCoGeは最も強磁性転移温度が低く, 圧力によって量子臨界点に似た振る舞いをすることが報告されていました。 当研究室で圧力下で核四重極共鳴(NQR)を行った結果,圧力で強磁性が消失するのに伴って強磁性ゆらぎが大きく発達することが明らかとなりました。 この振る舞いは強磁性量子臨界点が近傍に存在することを強く示唆します。本当は量子臨界点は有限磁場にあるはずですが,ゆらぎが強いという結果からゼロ磁場に近い位置にあると考えられます。 同時に超伝導も発達することから,この系の超伝導は強磁性量子臨界点によって引き起こされているといえます。
詳しくは「最近のトピックス」の記事をご覧ください。
以上の研究の他にも、当研究室では量子臨界現象に関連する次のような研究を行ってきました。