文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象に戻る
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トポロジカルってなに?

トポロジーってなんのこと? 「トポロジー」は物に切れ目を入れたり穴をうめたりせずに連続的に形を変えたときに、変形の前後で変わらない性質を議論する数学の分野です。簡単な例として良く引き合いに出されるのが、「マグカップとドーナッツ」です。

ドーナッツはマグカップと同じ!? ドーナッツは食べられますが、マグカップは食べられません。「食べられるか、食べられないか」という観点から分類すると、取っ手のついたマグカップとドーナッツは当然別の仲間に分けられます。

それでは他の観点から分類するとどうなるでしょうか?

マグカップを粘土で作る事を考えて、取っ手のところに穴をあけておきます。さて、粘土で作ったカップをちぎったり、繋ぎ換えたりせずに変形するとドーナッツに化かすことができます。変形の前後で変わらない性質は、「穴が1個あいている」事です。「穴が1個」ある事をもって、「マグカップとドーナッツはトポロジー的に同じである」と言います。

マグカップと同じく飲み物の器として、抹茶茶碗があります。でも一般的な抹茶茶碗には普通穴があいていません。ですからどうやって連続変形しても取っ手付きのカップにはなりません。この事実を「マグカップと抹茶茶碗はトポロジー的に異なる」と言います。

ドーナッツと浮き輪は同じく穴が一つあいているのでトポロジー的に同じです。でも一人乗りの浮き輪と二人乗りの浮き輪は穴の数が違いますから、トポロジー的に異なるわけです。このように穴の数はトポロジカル数と呼ばれる整数になり、穴の数が同じならばトポロジー的に同じ、違えばトポロジー的に違うと言います。ここでは「穴の数」を使ってトポロジーの説明を試みましたが、トポロジーが対象とするのは穴だけではありません。

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例えば棒に紐を巻きつけて、紐の両端を結んだときに、何回巻きつけてあるかも
トポロジカル数です。ヘアピンと輪ゴムを使って、トポロジカル数の違う巻きつけ方をつくれます。

トポロジカル量子現象とは? 私たちは文部科学省からの補助を受けて「トポロジカル量子現象」という研究プロジェクトを進めています。研究の対象にしているのは、超伝導体、超流動体、そして絶縁体です。これらの中には私たちが普段の生活でよくみかけるものもあります。

物質を分類するとき私たちが普通使う量として、たとえば電気を良く通すか通さないかを量る電気抵抗があります。電気を通さない物質(電気抵抗が無限に大きい)は「絶縁体」と呼ばれ、ゴムや陶器などはその例です。電流が良く流れる(電気抵抗が小さい)物が「金属」で、家の中に廻っている電線には金属である銅が使われています。携帯電話をはじめとする電子機器の機能をになう素子に使われるのが、この中間の(電気抵抗が結構大きい)「半導体」です。最後に、冷やすと電気抵抗が全くゼロになる金属は特に超伝導体と呼びます。

電気を運ぶにない手は「電子」と呼ばれる素粒子です。この電子はあまりに小さくまた軽いので、我々人間が従うニュートンの力学とは違い、電子は「量子力学」に従います。上に述べた、絶縁体、金属、半導体、超伝導体の区別ができ、携帯電話で話せるのも実は量子力学のおかげです。量子力学では電子の雲のような状態は「波動関数」と呼ばれる数式を使って表します。

わたしたちが研究の対象とする新型の超伝導体、液体ヘリウムの超流動体、新型の絶縁体では、この波動関数の性質がすこし変わっていて、その変り様が「自明でないトポロジカル数」で分類できる物質達なのです。「自明でない」というのが「変わっている」という意味です。これら変わった物質達のひとつの特徴は、物質の表面や端に「自明でない量子状態」が現れることです。たとえば絶縁体なのに端のところは金属のように電気を流す性質をもったり、新型の超伝導体ではいつでも端のところに永久電流が流れたりすると考えられています。

また超流動体の流れの渦の強さや、超伝導体の中に入る磁場の束(磁束)の量は、大きさの決まったとても小さな量の整数倍になることが知られています。ところが特別なトポロジーを持つ超流動体や超伝導体では、その決まった大きさのちょうど半分の強さの渦や磁束ができると考えられています。このように「非自明なトポロジカル数をもつ波動関数」のために起きる新しいタイプの現象を「トポロジカル量子現象」と名付けました。

新しい自然観に向かって 金属、半導体、超伝導体、超流動体は、電気の流れ易さの分類では全く異なる性質と考えられ、互いに異なる学問分野で研究されてきました。マグカップとドーナッツを食べられるか、食べられないかで分類したとき、それを作る陶器メーカーと食品メーカーの業種が違うのと同様です。物質に依存した現象には、その物質固有の原因があるはずです。メンバーの研究者は、元々異なる研究分野で異なる物質を研究し、物質固有の問題を調べてきたのです。

しかし自然を広く眺めてみると、様々な物質で現れる普通と違う現象の中に、物質を超えて互いに結構似たふるまいが潜んでいることが見えてきます。類似な現象の背景には、そうなるべき普遍的な理由があるはずです。また、その理由を探ることで、自然現象を今よりすっきりと、そしてより深く理解できるはずです。

トポロジーの考え方は、確かに抽象的です。しかしそのために、具体的な物質を超えた普遍法則を探るときにとても役に立つ考え方なのです。ここに私たちが新しい研究プロジェクト「トポロジカル量子現象」を始めた理由があります。「自明でないトポロジカル数」という尺度で物理現象を見直すと、これまでとても違っていると思い込んでいた物質が、意外と良く似ている物質だということに気づいたりするのです。

このような新しい自然のとらえ方は、これまで私たちが蓄積した知見を再整理するだけではなく、科学に様々な進展をもたらすものと考えています。たとえば、新しい動作原理に基づく将来のコンピュータの素子などが実際に提案されるなど、大きな飛躍を期待できる分野と直結した研究課題を包含しているのからです。基礎科学に携わる私たちは、この新しい自然観がまだ人類が気付いていない新現象の発見に結実すると、またそのことによって、次の新しい自然観を生むと考え研究を進めています。

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