研究概要

本領域の目的

 本新学術領域は、物質に内在するトポロジーを基軸として、強い電子相関・結晶対称性・半導体ナノ構造に由来する新奇物性開拓を行うとともに、トポロジカル量子相特有の準粒子を探索・実証し、その背後に横たわる量子凝縮相の物理を解明することを目的とする。新たな分野横断型の研究領域「トポロジーが紡ぐ物質科学のフロンティア」を開拓し、その基礎学理の構築と学問体系の樹立を目指す。

 領域組織は4つの研究項目からなり、各研究項目は1つの計画研究と複数の公募研究よりなる。研究項目のうち3つは物質系に即した、研究項目A班 「トポロジーと強相関」B班「トポロジーと対称性」C班「トポロジーとナノサイエンス」であり、互いに強い協力関係を保ちながら研究を推進する。これらの連携をさらに強固にする横糸の役割を担うのが理論家から成るD班「トポロジーと新概念」であり、トポロジカル量子現象に関する普遍概念の構築を目標とする。

研究項目 A : トポロジーと強相関

計画研究 A01: 強相関物質のトポロジカル相

 本計画研究の目的は、電子間の相互作用が強い物質(強相関物質)で発現する超伝導体・絶縁体・半金属などの相での、トポロジカルに非自明な量子凝縮状態や量子相転移の研究を格段に深化・発展させることである。本研究では、遷移金属酸化物や重い電子系化合物を主な舞台として、人工超格子や微細加工・接合系も含め、強相関トポロジカル現象の物理を発展させる。この研究の遂行により、対称性に基づく非従来型超伝導という分類を、トポロジカル超伝導の視点からとらえなおし、より精緻に体系化する。また、モット絶縁体や半金属も含めた新奇トポロジカル相の創成・制御を進めるとともに、電子相関の有効性を明らかにする。これらの研究を研究項目内および研究項目間での活発な連携を生かして進める。

研究項目 B : トポロジーと対称性

計画研究 B01: 対称性に基づいた新奇なトポロジカル相の探求
 本研究では、対称性とスピン軌道相互作用を起源とする新しい種類のトポロジカル物質を探索するとともに、トポロジカル物質が発現する新奇量子現象やエキゾチック準粒子の性質を解明することを目的とする。とりわけ、トポロジカル絶縁体、ディラック半金属、ワイル半金属、トポロジカル超伝導体などの新奇トポロジカル物質を世界に先駆けて発見し、先端分光技術などを駆使して、その電子構造の完全決定を目指す。高品質のバルク・薄膜単結晶の作製に加えて、MBE法や接合デバイス作製技術を用いてトポロジカル超伝導候補物質の各種接合を作製することなどによって、新奇トポロジカル量子現象の観測・解明を行う。また、他の計画研究との有機的研究交流によって概念共有を深めた研究展開も図る。

研究項目 C : トポロジーとナノサイエンス

計画研究 C01: トポロジカル物質ナノ構造の輸送現象
 本計画研究「トポロジカル物質ナノ構造の輸送現象」の目的は、半導体ヘテロ構造・低次元ナノ構造や超伝導体・強磁性体のハイブリッド構造等によるトポロジカル物質ナノ構造を用い、新奇なトポロジカル量子現象を引き出し、トポロジカル系に特有なエキゾチックな準粒子の振る舞いを明らかにすることである。トポロジーとナノ構造により制限された自由度の下で、対称性・相互作用・近接効果が生む相乗効果により、特異な量子現象やエキゾチックな準粒子の発現、トポロジカル物質ナノ構造デバイスの基礎原理の提案、原理実証を目指す。また、新学術領域内での連携により、トポロジカル量子 相転移、トポロジカル超伝導、ワイル半金属、マヨラナ準粒子などの研究を発展させる。

研究項目 D : トポロジーと新概念

計画研究 D01: トポロジカル相におけるエキゾチック準粒子

 本研究では、物質科学の新たな局面を切り開きつつあるトポロジカル量子相とそこに発現するエキゾチック準粒子の基本的性質を理論的に解明し、さらに個々の物質の詳細によらない普遍的な物理現象と法則を探究する。既存の枠組みを超えた発想と分野を越えた概念の融合により、より広い観点から基礎学理の構築を目指す。特に、トポロジカル物質科学の開拓の鍵となる「強相関」、「対称性」、「ナノサイエンス」に重点を置いた理論研究を展開し、領域研究全体の連携を推進する横糸の役割を担う。本研究は、トポロジカル量子現象という普遍概念の理論構築を通して、物質の詳細によらない普遍的な視座を与えると同時にこのような分野横断的な学問を切り拓く若手研究者を育成する。