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超伝導体U6Coの小さなスピン帯磁率とパウリ常磁性効果の欠如

ウラン系の化合物には低温の重い電子状態で奇妙な超伝導状態を示すものが数多く知られていますが、中には電子がより遍歴的で従来型の超伝導を示す物質も存在します。 その1つとして正方晶の結晶構造を持つU6Coが挙げられます。その超伝導転移温度は約2.3 Kで、ウラン系化合物としては比較的高いことが特徴です。

一般に超伝導は磁場によって破壊され、その機構として軌道対破壊効果とパウリ常磁性効果の2つがよく知られています。 そのうち後者は、超伝導状態でスピン帯磁率が減少してスピン磁化のエネルギー利得が正常状態よりも小さくなることに起因し、ゆえに正常状態のスピン帯磁率が大きいほどパウリ常磁性効果が強く(臨界磁場が低く)なります。 U6Coは帯磁率が比較的大きいことが知られ、この効果によって臨界磁場が抑制されることが期待されます。 ところが実際の上部臨界磁場は単純な計算で得られるパウリ臨界磁場を超え、その振る舞いは軌道対破壊効果で理解されます。[1] その原因としてU6Coのスピン帯磁率が予想外に小さい可能性が指摘されています。

我々はU6Coに対して59Co核磁気共鳴(NMR)を行い、微視的観点からスピン帯磁率を調べました。 その結果、スピン帯磁率に相当するナイトシフト(NMR共鳴線のシフト)の超伝導状態での減少が極めて小さいことを見出しました(図1)。 しかもその変化は超伝導の反磁性によって定量的に説明され、スピン帯磁率の減少に起因する変化はより小さいことを示しました。 この結果は、スピン帯磁率自体が小さいことを示唆し、パウリ常磁性効果の欠如と整合的です。 ナイトシフトは超伝導の偶奇性の判別において重要な役割を果たしますが、今回の結果から不変なナイトシフトをもとにスピン三重項対であると結論するのは早計であると言えます。 また、他のウラン系化合物でもスピン帯磁率の割合が小さい系が知られ、この特徴はウラン系化合物に共通する可能性があると指摘しています。

本研究は東北大学の青木大教授のグループ(試料作製)との共同研究です。 この結果はJournal of the Physical Society of Japanに掲載されました。 当論文はOPEN SELECTですので、どなたでも無料で閲覧することができます。

超伝導体U6Coにおける59Co NMRナイトシフトの超伝導状態での温度変化。
		1 Tから 3 Tまでの結果を示す。ナイトシフトは正常状態で約1.7%であるが、超伝導状態での減少量は1 Tでも0.04%と小さく、高磁場ほどさらに減少が抑制される。
(a) U6Coにおける59Co NMRナイトシフトの温度依存性。ナイトシフト全体に対してその減少が小さい。 高磁場で減少量が強く抑制され、反磁場が減少の主要な起源であることがわかる。 (b) ナイトシフトの減少量の磁場依存性。赤の実線は反磁場の理論曲線で、実験結果をおおむね再現する。 (c) 1 Tにおける正常状態と超伝導状態のNMRスペクトル。

[1] D. Aoki et al., J. Phys. Soc. Jpn. 85, 073713 (2016).

論文情報

Masahiro Manago, Kenji Ishida, and Dai Aoki
J. Phys. Soc. Jpn. 86 073701 Jun. 2017