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急冷によって生じたSr2RuO4の準安定渦糸状態

層状ルテニウム酸化物超伝導体 Sr2RuO4は強い異方性を持った第II種超伝導体であり、カイラルp波スピン三重項超伝導体の有力な候補物質とされています[Ref. 1]。スピン三重項超伝導体では、そのクーパー対の状態ベクトルがスピンと軌道の自由度を持つため、異なる秩序変数で特徴付けられる複数の超伝導状態が磁場下で発現する可能性が指摘されています[Ref. 2]。その一方で、秩序変数の変化による相とは別に、第 II 種超伝導体では一般的に転移温度に近づくにつれ渦糸間の相互作用に起因したvortex-matterとしての多彩な渦糸状態が生じえます[3]。よってスピン三重項性に起因した超伝導相の変化とvortex-matterに起因した超伝導相の変化を区別できるように、Sr2RuO4の渦糸状態の詳細な研究が必要とされています。

我々は、普通の磁場掃引(FS)過程に加えて、超伝導をデータ測定前に熱的に破壊し各磁場で磁場中冷却するという"各点磁場中冷却(EPFC)過程"の2つの方法で交流磁化率を測定しました。その結果、EPFC過程の方が磁束のピニングが強まることが分かりました。このことは、準安定な渦糸状態をEPFC過程によって創りだすことができたことを示します。また低磁場では2つの過程で交流磁化率に差がなくなる領域が存在することを初めて明らかにしました。この結果は、低磁場側では一次元的な渦糸液体状態が実現し、ピニングの影響が弱まったことによると解釈できます。

2014年4月のTopicsの図
図 : Sr2RuO4の交流磁化率の磁場依存性。○はEPFC過程を、△はFS過程を表す。

本研究は東北大学の野島勉教授との共同研究によるものです。この結果はPRB誌に掲載されています。

[Ref. 1] Y. Maeno, et al., JPSJ 81, 011009 (2012).
[Ref. 2] Y. Yanase, et al., JPSJ 82, 044711 (2013).
[Ref. 3] G. Blatter, RMP 66, 1125 (1994).

論文情報

D. Shibata, H. Tanaka, S. Yonezawa, T. Nojima, and Y. Maeno
Phys. Rev. B 91 104514 Mar. 2015