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擬一次元超伝導体(TMTSF)2ClO4の超伝導ギャップ構造と熱力学的超伝導相図

擬一次元超伝導体(TMTSF)2XX = ClO4, PF6, etc.)は1980年に史上初めて発見された有機物の超伝導体として知られており、また超伝導ギャップに符号反転を伴う「非従来型」超伝導体の最も古い候補として長く研究されてきました。しかしながら、実験的な制約条件が多いことなどから、この系の超伝導ギャップ構造や熱力学的な超伝導相図などの超伝導を理解する上で基本的に重要な情報が実は明らかになっていませんでした。そこで、我々は常圧下で超伝導を示す(TMTSF)2ClO4単結晶の熱容量測定を行うことを目的に実験技術開発を進めてきました。そして、76マイクログラムの単結晶試料の熱容量も量れるような装置を開発しました。

2012年4月のTopicsの図1
図1: (TMTSF)2ClO4の結晶構造とTMTSF分子の構造。

この装置を用いて、我々は(TMTSF)2ClO4の磁場方向分解熱容量測定を行いました。ここで、「磁場方向分解」とは、結晶軸方向に対して磁場方向を精密に制御しながら、熱容量の磁場強度依存性だけでなく磁場方向依存性をも明らかにすることを意味しています。磁場角度分解熱容量測定はパラメーターの数が多いために手間のかかる実験ですが、各磁場方向における熱力学的な超伝導相図を明らかにしたり、熱容量の磁場方向依存性から超伝導ギャップの構造を推定できる、非常に超伝導研究において強力な手法です。

我々は、この物質の熱容量の磁場方向依存性が低温低磁場において図2(a,b)のような奇妙な構造を持つことを明らかにしました。この構造をモデルと比較することにより、この物質の超伝導ノード構造は図2(d)のようになっていると考えるのが最も自然であることを明らかにしました。また、熱容量の磁場強度依存性から、各磁場方向における熱力学的超伝導相図を明らかにしました。熱力学的な相図は電気抵抗から決めた相図と大きく異なっており、特に高磁場領域ではエントロピー変化をほとんど伴わない(おそらく長距離秩序ではない)興味深い超伝導が実現している可能性を示唆しています。

2012年4月のTopicsの図2
図2: (a)観測された熱容量の磁場方向依存性と(b)それを磁場の角度φで微分したもの。(c)開発した熱容量測定セル。(d)実験から考えられる(TMTSF)2ClO4の超伝導ギャップ構造。

この結果は、1980年(私の生まれた年!)の発見から30年以上も精力的に研究されてきたにもかかわらず未だに謎の多いTMTSF系の超伝導の研究の進展に大きく寄与すると考えられます。

この結果はPhysical Review B誌のRapid Communicationに掲載されました

論文情報

Shingo Yonezawa, Maeno Yoshiteru, Klaus Bechgaard and Denis Jérome
Phys. Rev. B 85 140502(R) Apr. 2012