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単結晶UCoGeにおける強磁性と超伝導の微視的共存

従来、Meissner効果により磁束を排除する超伝導と強磁性とは共存しえないものと考えられていました。しかし、2000年に圧力下のUGe2において強磁性と超伝導の共存が報告[1]されて以来、Uを含む系で強磁性と超伝導が共存する物質が幾つか発見されました(UIr, URhGe, UCoGe)。現在、このような強磁性超伝導体において、強磁性と超伝導がどのように共存しているのか非常に興味が持たれています。

その中でもごく最近発見(2007年)されたUCoGeは、常圧において2.5 Kで強磁性転移した後、強磁性超伝導体としては最も高い0.8 Kで超伝導転移を起こします。我々は純良な単結晶試料を用い、Co-NMR/NQR測定を行うことで、その強磁性と超伝導の共存の様子をミクロな視点で調べました。そして、1)強磁性転移温度以下で内部磁場を受けた信号のみが観測され、試料全体が強磁性になっていること、2)強磁性転移温度以下で現れる強磁性信号の核スピン‐格子緩和率に超伝導の異常が見えたことから、強磁性と超伝導が"ミクロ"に共存していることを明らかにしました。加えて、試料全体で生じる強磁性秩序に対して超伝導状態は空間的に不均一であることが分かりました。このことから我々は、外部磁場がない状況でも自身の持つ強磁性秩序に由来して磁束が生まれる「自己誘導渦糸状態」が生じている可能性を指摘しました。この自己誘導渦糸状態は理論的にはその存在が予言されているものの、確実な実験的証拠はまだありませんでした。

このようにUCoGeの強磁性と共存する超伝導状態では、今までの超伝導状態とは大きく異なる「新奇な超伝導状態」が実現していると考えられます。今後も、この強磁性超伝導状態の全容解明に向けた研究を進める予定です。

2010年2月のTopicsの図1
図1 : UCoGeにおける核磁気緩和率1/T1の温度依存性。挿入図は59Co-NQR スペクトル(±7/2⇔±5/2遷移)
強磁性転移温度TCurie(~2.5K)以下では、内部磁場の影響を受けたCoサイトのスペクトルの位置はシフトする。我々の単結晶試料では低温で常磁性信号(f0~8.3MHz)は消え、強磁性信号(f0~8.1MHz)のみが見らた(挿入図)。このことは試料全体が均一に強磁性になっている事を意味している。そして、この強磁性信号における1/T1に、超伝導転移温度TSC以下で超伝導異常が見られたことから、強磁性と超伝導がミクロに共存していることを明らかにした。

この結果はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載されEditor's choiceに選ばれました。OPEN SELECTですので、どなたでもご覧頂けます。またNews and Commentsに解説記事を掲載して頂いています。

[1] S. S. Saxena et al., Nature (London) 406, 587 (2000).

論文情報

Tetsuya Ohta, Taisuke Hattori, Kenji Ishida, Yusuke Nakai, Eisuke Osaki, Kazuhiko Deguchi, Noriaki K. Sato, and Isamu Satoh
J. Phys. Soc. Jpn. 79 023707 Feb. 2010