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幾何学的フラストレート磁性導電体PdCrO2の相転移温度近傍における異常な臨界性

様々な最適化の条件が互いに競合しあうような状況ではフラストレーションを起こすことはよくあることです。磁性体においては、そのようなフラストレーションが生み出される状況が、新奇なスピン状態やエキゾチックな物理現象を実現させる格好の舞台であることが知られています。

今回、私達は、幾何学的フラストレート格子の中でも最もシンプルかつ基本的な構造を持つ「二次元三角格子磁性体」を対象に、中でも非常に珍しく導電性を有するPdCrO2という物質に着目して研究を行いました。私達は、2段階の合成過程を経て、多結晶試料のPdCrO2の合成に成功し、電気抵抗率・比熱・磁化率・中性子散乱等の測定を行いました。その結果、(1)0.3 Kまで金属的導電性が保たれること(2)TN=37.5 Kで120度構造の反強磁性秩序化すること(3)TN以上の電気抵抗率の温度依存性は、単純な反強磁性の場合とは異なっており、非常に緩やかな温度変化を示すこと(4)そして、その温度域では比熱の振る舞いに臨界的発散が広がっており、見積もった臨界指数は他のフラストレート磁性体や理論的予測値に当てはまらない特異な値であること、などを明らかにしました。これらの振る舞いは、幾何学的にフラストレートした局在スピンと伝導キャリアとの特異な相互作用に起因している可能性があり、非常に興味深い結果です。また、これらの結果に加え、三角格子磁性体においてみられるユニバーサルな特徴として、①広い臨界発散領域を持つことや②非常にブロードな磁気回折ピークを持つこと等の指摘も行いました。

フラストレーション系の金属試料のスピン揺らぎや局在フラストレート磁性と導電性の相互作用については、最近、非常に興味が持たれて研究が行われています。今後の展開が楽しみな研究テーマのひとつです。

2009年3月のTopics 2009年3月のTopics2

この結果はPhysical Review B誌に掲載されEditors' Suggestionに選ばれました。

論文情報

Hiroshi Takatsu, Hideki Yoshizawa, Shingo Yonezawa and Yoshiteru Maeno
Phys. Rev. B 79 104424(1-7) Mar. 2009