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近年の成膜技術の発展により、複数の物質を単位格子ずつ積層した構造を持つ人工超格子の作製が可能になりました。特に、2011年に京都大学の松田・寺嶋グループ(現量子凝縮物性研究室)によって作製された人工超格子CeCoIn5/YbCoIn5は、重い電子系超伝導体のCeCoIn5を、常磁性金属のYbCoIn5で挟みこむことで、人工的に2次元重い電子系超伝導を実現させた系として注目を集めました[1]。 一方、CeCoIn5と遍歴反強磁性金属CeRhIn5を交互に積層させたCeCoIn5/CeRhIn 5では磁気的なCeRhIn5を反映して、CeCoIn5/YbCoIn5とは異なった超伝導状態が期待されています。実際、圧力下の上部臨界磁場のふるまいから、CeRhIn5の反強磁性ゆらぎがCeCoIn5層に注入されたことによる強結合超伝導状態の実現が考えられていますが[2]、磁気ゆらぎの注入といった微視的な現象はバルク測定では直接観測できず、その詳細は明らかになっていませんでした。
そこで我々は2つの人工超格子CeCoIn5/YbCoIn5とCeCoIn5/CeRhIn5に対し微視的測定手段である核磁気共鳴測定を行い、両人工超格子のCeCoIn5層の磁気ゆらぎを比較しました。図は各人工超格子と単結晶CeCoIn5の反強磁性ゆらぎに関係する1/T1Tの温度依存性です。CeCoIn5/YbCoIn5のCeCoIn5層では、単結晶CeCoIn5に比べて1/T1Tが減少しています。これは界面での反転対称性の破れにより、反強磁性ゆらぎが抑制された影響だと考えられます。 一方、CeCoIn5/CeRhIn5のCeCoIn5層の1/T1Tは単結晶CeCoIn5のものとほとんど変わらず、さらに低温では1/T1Tが増大する成分があることがわかりました。したがってCeCoIn5/CeRhIn5では界面での反転対称性の破れの影響がCeCoIn5/YbCoIn5より小さく、また低温ではCeCoIn5層界面のスピンゆらぎは隣接したCeRhIn5層の反強磁性秩序により増強されていると考えられます。また本研究結果は、同じCeCoIn5の磁気ゆらぎが隣接層により増大・減少することを微視的観点から初めて明らかにし、人工超格子において物質の組み合わせが磁気ゆらぎを人工的に操作できるパラメータになりうることを示した重要な結果と考えています。
本研究は京都大学の松田教授,寺嶋教授,東京大学の芝内教授らグループとの共同研究によるものです。この結果はPRB誌Rapid Communicationに掲載されています。
[1] Y. Mizukami et al., Nat. Phys. 7, 849 (2014).
[2] M. Naritsuka et al., Phys. Rev. Lett. 120、187002 (2018).