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絶対零度における二次の相転移は量子臨界点(Quantum Critical Point; QCP)と呼ばれています。強相関電子系では種々の物質で圧力や、磁場、元素置換などによって磁気相転移の温度が変化し、QCPが現れることがわかっています。また、QCP近傍では量子臨界ゆらぎを起源とした非従来型の超伝導や電子ネマティック秩序など興味深い量子現象が発見されており、新たなQCPの探索やQCP近傍の物性測定は強相関電子系のメインテーマの一つとなっています。
これまでに反強磁性QCPについて多くの研究がなされてきましたが、強磁性転移に関しては極低温で転移の次数が二次から一次に変化することが理論、実験の両面から報告されており、強磁性QCPが本質的に存在するかどうかという点に関して近年問題になっています。
私たちは二次元的な結晶構造を持つ重い電子系物質Ce(Ru1-xFex)POを用いて強磁性の量子臨界現象に関して調べました。CeRuPOが強磁性転移温度TCurie = 15 Kの強磁性に対して、CeFePOは0.07 Kまで常磁性であるため、それらの混晶系Ce(Ru1-xFex)POにおいて強磁性基底状態と常磁性基底状態の連続的な変化が期待できます。
本論文ではx = 0.25, 0.5, 0.75, 0.85, 0.87, 0.9, 0.95, 1の8つの試料において0.08 Kまでの31P-NMR測定を行い、以下のことを明らかにしました。
(1)TCurieと強磁性秩序モーメントがCeRuPO(x = 0)からx ~ 0.86 に向かって連続的に減少すること(図1)、
(2)面内の磁気ゆらぎS⊥がx ~ 0.86、T = 0 Kに向かって発散すること(図2)、
(3)x = 0で見られたメタ磁性的ふるまい(前回の研究参照)はx > 0.87で見られ、そのメタ磁性磁場HMはxの増大とともに減少すること。
これらの結果はCe(Ru1-xFex)POにおいてx ~ 0.86に強磁性QCPが存在することを示唆しています(図3:相図)。QCP近傍で強磁性QCPを示す物質はこれまでほとんど報告がなく、Ce(Ru1-xFex)POは強磁性量子臨界現象の研究に適した新たな系と考えられます。また、これまでの強磁性量子臨界物質との差異についても興味が持たれています。
本研究は慶応大学の中村哲郎氏、的場正憲教授、神原陽一准教授(試料作製)との共同研究です。この結果はPhysical Review Letters誌に掲載されています。