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鉄系超伝導体の母物質BaFe2As2は様々な元素置換によって超伝導を示すことが知られています。Asサイトの一部をAsと等価数のPで置換したBaFe2(As1-xPx)2は、Tc,max ~ 31 K ( x ~ 0.33 )と比較的高温で超伝導を示します。AsとPは等価数置換のためキャリア数が変化せず、電子構造を大きく変えることなく磁気励起の強さを変化させられると考えられます。以前、我々のグループはこの系のx = 0.33において、NMR測定により常伝導状態の反強磁性揺らぎと、超伝導状態の残留状態密度の存在を報告し、超伝導ギャップにノードが存在することを報告しました[1,2]。今回、固体電子物性研究室の松田祐司教授、芝内孝禎准教授、低温センターの寺嶋孝仁教授、宍戸寛明助教、笠原成博士、凝縮系理論グループの池田浩章助教らと共同で、超伝導を示す広範囲のP濃度x ( 0.20 ≦ x ≦ 0.64 )について、純良試料を用いて系統的に31P-NMR測定を行い、微視的物性を調べました。
ナイトシフト測定から、P置換によって状態密度はほとんど変化しないことを実験的に明らかにしました。この点は電子ドープを伴うBa(Fe1-xCox)2As2と大きく異なり、等価数置換が電子構造を大きく変化させずに超伝導を誘起できる良いチューニングパラメータであることを示しています。そのため、BaFe2(As1-xPx)2は高温超伝導と磁気励起の関係を調べる格好の舞台であると言えます。核スピン-格子緩和率1/T1の温度変化から、低いTcを持つP濃度の高い領域から反強磁性相の境界付近にかけて、Tcの上昇とともに二次元反強磁性揺らぎが発達していく振る舞いが得られ、さらに1/T1から見積もられる磁気秩序温度θがTcの最も高くなる領域x = 0.33で0 Kに近い値を取ることがわかりました。このことは、反強磁性揺らぎがこの系における高温超伝導の発現に中心的な役割を果たしており、その反強磁性揺らぎはx = 0.33付近に存在する量子臨界点に由来することを示唆しています。量子臨界点近傍の超伝導はf電子が主要な役割を果たす重い電子系(Tc ~ 1 K程度)によく見られる振る舞いです。興味深いことに、d電子が主役でエネルギースケールも重い電子系とは大きく異なる鉄系超伝導体でも、量子臨界点と超伝導の間に強い相関がみられたことは、両者に共通した普遍的な超伝導のメカニズムの存在を示しているのかもしれません。
この結果はPhysical Review Letter誌に掲載されています。
[1] Y. Nakai et al., Phys. Rev. B 81, 020503(R) (2010).
[1] K. Hashimoto et al., Phys. Rev. B 81, 220501(R) (2010).
[1] H. Shishido et al., Phys. Rev. Lett. 104, 057008 (2010).