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遍歴反強磁性体から非従来型超伝導へ: NMRからみた鉄系高温超伝導体LaFeAs(O1-xFx)

 今年2月に東工大細野教授の研究グループが、26 Kという高温で超伝導を示すLaFeAs(O1-xFx) を発見して以来、世界中でこの超伝導体の研究が行われています。その後の研究で、La(ランタン)元素を他の希土類元素に変えることで50Kを超す転移温度がすでに実現され、今後どこまで転移温度が上昇するか、大変注目を集めています。  この高い転移温度に加え、LaFeAs(O1-xFx) が強磁性を示す鉄元素を含む超伝導体である点も非常に興味深い点です。というのも、従来の超伝導理論であるBCS理論の枠組みでは強磁性や反強磁性などの磁気的な状態は超伝導を壊すとされてきました。ところが、1986年以後発見された銅酸化物高温超伝導体(最高転移温度160K)では非常に高い転移温度が、驚くべきことにBCS理論によれば超伝導を壊すはずであった強い磁気状態から生じていると考えられています。今回発見された鉄系超伝導でも鉄に由来した磁気的な状態と超伝導の関係に、研究者たちの興味が集まっています。

今回、私たちの研究グループは、東工大の細野秀雄教授と神原陽一研究員らと共同で、核磁気共鳴法(NMR)を用いて、LaFeAsO、LaFeAs(O0.96F0.04) (超伝導転移温度Tc = 17.5K)、LaFeAs(O0.89F0.11) (Tc = 22.7K)の磁気的な性質、超伝導の性質を調べ、以下のような性質を明らかにしました。

2008年6月のTopicsの図1
図: LaFeAs(O1-xFx)における核磁気緩和率(1/T1)の温度依存性。x=0では反強磁性秩序に見られる臨界発散がT=142Kで観測された。x=0.04、0.07の超伝導状態では、線状で超伝導ギャップが消えている時に見られる1/T1T 3の温度依存性が観測された。

今回明らかとなった超伝導ギャップの特徴は、FeAs系超伝導体が銅酸化物高温超伝導体と同様、非従来型超伝導体であることを示すものです。また、フッ素置換によって母物質での反強磁性が急激に抑えられ、非従来型超伝導に移り変わる様子は、銅酸化物高温超伝導体や近年盛んに研究がなされている希土類、アクチナイド化合物に共通して見られる振る舞いと類似しています。しかし、興味深いことに、非従来型超伝導の発現機構に関係すると考えられる磁気励起はフッ素置換とともに劇的に変化する一方、超伝導の転移温度にはそれほど大きな変化は見られませんでした。この点は、磁気励起と超伝導とが密接に関係する銅酸化物超伝導の場合とは異なる、新しいタイプの高温超伝導がFeAs系で実現している可能性を示唆しています。

この結果はJournal of the Physical Society of Japan誌に掲載され、7月号のEditors' Choiceに選ばれました。

論文情報

Yusuke Nakai, Kenji Ishida, Yoichi Kamihara, Masahiro Hirano, and Hideo Hosono
J. Phys. Soc. Jpn. 77 073701 July 2008