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鉄系超伝導体は2008年に東工大の細野グループによって発見されたFeAs層もしくはFeSe層を持つ一連の超伝導物質群のことです。 その高い転移温度(最高55 K)と磁性相と隣接した超伝導相の存在から非常に多くの研究者が研究を行っています。ここでは、当研究室で研究しているBaFe2(As1-xPx)2とFeSeのトピックスを紹介します。
鉄系超伝導体の母物質BaFe2As2は様々な元素置換によって超伝導を示すことが知られています。 Asサイトの一部をAsと等価数のPで置換したBaFe2(As1-xPx)2は、Tc,max ~ 31 K (x ~ 0.33)と比較的高温で超伝導を示します。 AsとPは等価数置換のためキャリア数が変化せず、電子構造を大きく変えることなく磁気励起の強さを変化させられると考えられます。 ナイトシフト測定から、P置換によって状態密度はほとんど変化しないことを実験的に明らかになっています。 この点は電子ドープを伴うBa(Fe1-xCox)2As2と大きく異なり、等価数置換が電子構造を大きく変化させずに超伝導を誘起できる良いチューニングパラメータであることを示しています。 そのため、BaFe2(As1-xPx)2は高温超伝導と磁気励起の関係を調べる格好の舞台であると言えます。 核スピン-格子緩和率1/T1の温度変化から、低いTcを持つP濃度の高い領域から反強磁性相の境界付近にかけて、Tcの上昇とともに二次元反強磁性揺らぎが発達していく振る舞いが得られ(図1)、さらに1/T1から見積もられる磁気秩序温度θがTcの最も高くなる領域x = 0.33で0 Kに近い値を取ることがわかりました(図2)。 このことは、反強磁性揺らぎがこの系における高温超伝導の発現に中心的な役割を果たしており、その反強磁性揺らぎはx = 0.33付近に存在する量子臨界点に由来することを示唆しています。 量子臨界点近傍の超伝導はf電子が主要な役割を果たす重い電子系(Tc ~ 1 K程度)によく見られる振る舞いです。 興味深いことに、d電子が主役でエネルギースケールも重い電子系とは大きく異なる鉄系超伝導体でも、量子臨界点と超伝導の間に強い相関がみられたことは、両者に共通した普遍的な超伝導のメカニズムの存在を示しているのかもしれません。
鉄系超伝導体FeSeはTS = 90 Kで構造相転移を示した後、低温まで磁気秩序を示さずにTc = 9 Kで超伝導転移する特異な鉄系超伝導体です。我々は19Tという高磁場までの核磁気共鳴測定を行いました。図3の左図は各磁場での核スピン-格子緩和率1/T1Tの温度依存性です。1/T1TはTS以下で反強磁性ゆらぎの発達に伴い増大し、Tc 以下で急激な減少を示します。
FeSeでは超伝導状態だけでなく通常状態においても1/T1Tが強く磁場に依存します。Tc直上に注目すると(図3右図)、1/T1TがTcより十分高温Tpから減少することが分かります。Tpは磁場を強くしていくとTcと同様に減少します。これは、Tpが超伝導と関係していることを示唆しています。1/T1TのTcより高温からの減少は、FeSeにおいて銅酸化物高温超伝導と同様に強い超伝導ゆらぎが存在することを示唆してます。このような超伝導ゆらぎによる擬ギャップ的振る舞いは他の物理量でも観測されています。