UCoGeの圧力下常磁性領域におけるスピン三重項超伝導

UCoGeは強磁性の内部で超伝導転移を示す特異な物質です。 我々のグループのこれまでの研究などから,この系ではc軸方向の大きなスピン揺らぎ(強磁性転移に近い状態)が超伝導の発現に欠かせないと考えられています。 強磁性と密接な関係を持つことから,この強磁性超伝導状態ではクーパー対のスピンのそろうスピン三重項対が実現していることが期待されてきました。 実際,上部臨界磁場が単純な計算で得られるパウリ臨界磁場を大きく上回り,かつNMRナイトシフトが減少しないことから この仮説が支持されています。 一方,圧力の印加によって強磁性が消失しても超伝導相は生き残り,こちらも上部臨界磁場が大きいのでスピン三重項対が有力な仮説となっていますが, 研究例が少なく,超伝導対称性についての詳細はいまだ明らかではありません。

我々はUCoGeの単結晶試料に対して,強磁性が消失する1.09 GPaで59Co核磁気共鳴(NMR)を行いました。 その結果,超伝導転移に伴ってナイトシフトがスピン成分に比べて大きく減少せず,スピン三重項対という仮説に整合的であることが明らかとなりました。 さらに,スペクトルを詳細に見ると転移温度以下でナイトシフトが増大,減少する2つの成分があることがわかりました(図)。 これはスピン磁化率が減少のみならず増大する成分があることを示唆し,この振る舞いは多くの超伝導体で実現するスピン一重項対では見られない,きわめて特異な現象であると言えます。 また,今回の測定では磁場をc軸に直交させてスペクトルを得ましたが,このことと磁化率の異方性を考慮すると,スピン三重項対の秩序変数であるdベクトルは 少なくとも今回測定を行った磁場下では磁化困難軸であるa軸に近い方向を向いている可能性があることを指摘しました。

本研究は名古屋大学及び東北大学金属材料研究所との共同研究です。この結果はPhysical Review B誌にRegular Articleとして掲載されています。 preprintはこちら

図:1.09 GPaにおけるUCoGeの59Co NMRスペクトルの温度依存性。

論文情報

Masahiro Manago, Shunsaku Kitagawa, Kenji Ishida, Kazuhiko Deguchi, Noriaki K. Sato, and Tomoo Yamamura 

Spin-triplet superconductivity in the paramagnetic UCoGe under pressure studied by 59Co NMR」 

Phys. Rev. B 100, 035203 (Jul. 2019).

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