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前野 悦輝 プロフィール

自己紹介

前野 悦輝(まえの よしてる)
氏名 :
前野 悦輝 (まえの よしてる) Yoshiteru MAENO
所属 :
京都大学 大学院理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻
物理学第1分野 固体量子物性研究室 教授

 超伝導や超流動などの量子凝縮現象をはじめとする、低温での物質の状態に興味を持って、物質合成技術や低温測定技術を駆使した研究を進めてきました。大学院時代は、超流動ヘリウムの熱対流を相転移やカオスの立場から研究しました。その後、重い電子系物質や銅酸化物高温超伝導体、スピンアイスをはじめとするフラストレートした磁性体も研究してきました。ルテニウム酸化物Sr2RuO4の超伝導を私どもが発見して以来、この超伝導の理解を極めるため、そしてスピン三重項超伝導体の実在を真に確立するための研究に力を入れています。さらに最近はトポロジカル量子現象の研究も展開しています。低温技術として、熱電対と超伝導量子干渉素子(SQUID)を組み合わせた高感度示差温度計、磁場方位を精密制御するベクトル超伝導マグネットシステムなどを開発しました。

ルテニウム酸化物の超伝導

  我々が1994年に超伝導を発見したルテニウム酸化物Sr2RuO4は、銅酸化物の高温超伝導体と 同じ結晶構造をとります。これまでの研究で、その超伝導がスピン三重項(スピントリプレット)の電子対によることが確実となりました。 一方、既存の解釈では説明が困難な実験事実もあり、まだ最終的な結論には至っていません。従来の超伝導はすべて2個の電子がスピン反平行の対をつくるスピン一重項(スピン・シングレット)であるのに対して、スピン三重項は 電子対のスピンが平行の画期的な状態で、これが実験的に確証されたのは初めての例といえます。

 スピン三重項超伝導では電子の特性である「電荷」の超流動性があらわれるだけでなく、もうひとつの重要な特性である「スピン」も同時に超流動性を持つという画期的な性質が得られます。

 現在は、高純度・高品質の単結晶資料の育成を進め、その超伝導状態の詳細・超伝導メカニズムの解明を進めるとともに、スピン三重項ならではの新しい超伝導現象・機能を開拓するべく研究を推進しています。

日本物理会誌

日本物理学会誌の2001年11月号表紙に掲載された研究成果。

層状ルテニウム酸化物 S2RuO4の超伝導は従来型の超伝導とは異なり、スピン三重項の電子対がになう画期的な状態であることが確実となりました。中央はその電子対のスピン(小さな矢印)と軌道角運動量(大きな矢印)に対して現在わかっている状態の模式図、左上は結晶構造を示しています。同号解説記事「スピン三重項超伝導の物理」(前野悦輝・出口和彦) より。

PHYSICS TODAY

米国物理学会誌"Physics Today"の2001年1月号に掲載された研究成果。

量子振動の実験結果に基づいて描いた S2RuO4のフェルミ面。3枚の円筒状のフェルミ面からなります。図はC. Bergemann提供。同号解説記事"The Intriguing Superconductivity of Strontium Ruthenate"(Y. Maeno, T.M. Rice, and M. Sigrist)より。

トポロジカル量子現象

 また新学術領域「対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象」(H22-H26年度)の領域代表者として、超伝導体、超流動体、絶縁体などの量子凝縮系において、様々な対称性の破れに基づくトポロジカルに特徴付けられる新奇な現象を分野横断的に研究することで、「トポロジカル量子現象」としての普遍概念を創出し、「トポロジカル量子物理学」という新たな学術領域の形成に取り組んでいます。

 特に、ルテニウム酸化物およびその共晶系(Sr2RuO4とRu金属などが規則的な空間パターンで固化した物質系)を舞台に、電子対の軌道角運動量の整列によって時間反転対称性が破れた超伝導体の性質を研究しています。そして、スピン三重項超伝導の全容の確定を目指すとともに、微結晶や複合(ハイブリッド)系を用いて、その表面や接合界面に現れるトポロジカル量子現象を明らかにする研究を進めています。

その他

 研究の楽しさや成果を社会に紹介・説明していくことが、今後ますます重要になってきます。トポロジーと物理現象の関係、超伝導や超流動などの量子凝縮現象の不思議をこれまでにない新しくわかりやすい手法で伝えていけたらと思います。また私の考案した元素の立体周期表"エレメンタッチ"を使った科学啓発活動も展開しています。