強相関電子系特有のモット絶縁相を金属化させる制御パラメータとして、これまで元素置換や圧力印加が広く用いられ、高温超伝導・超巨大磁気抵抗・スピン三重項超伝導など新奇な現象を生んできた。 本研究の目的は、強相関多体効果の本質を顕在化させる新しい制御パラメータとして直流電場・電流の有効性を確立するため、主に定常電流下の非平衡状態が創り出す新現象を明らかにするとともに、その機構の理解を進めることにある。 研究対象の中心はモット絶縁体 Ca2RuO4で、我々が最近発見した直流電流の下で創発する金属状態など、平衡状態では実現しない電子状態の理解を深める。また、他のモット絶縁相酸化物で同様の非平衡・非線形現象を探索することで、これらの新現象の特質と一般性を明らかにする。 本研究を通じ、強相関物質の非平衡定常状態で生まれる創発現象の研究展開の世界的先駆けを目指す。
定常電流のオン・オフによって物質の導電性や磁性を顕著に制御できることは、電子間の相互作用の強い強相関電子系の本性を利用した画期的な非平衡現象である。従来の制御パラメータでは誘起出来なかった電子状態を誘起できる可能性がある。特異な磁性や特異な超伝導をはじめとする新奇電子相が期待でき、様々な物質への波及効果も見込める。直流電流印加という最も身近な非平衡状態を利用して、モット絶縁体から新奇な性質を引き出せることは、物性科学の基礎にとってはもちろん、デバイス応用にとってもインパクトの大きい示唆的な方向性といえる。
これまで用いられてきた組成制御や圧力印加に加え、「直流電場・電流」という新しい物性制御パラメータの有効性を実証することで、我が国での発見からの新たな分野創造につながるという大きな意義が期待できる。