CaSb2の結晶構造は「非共型」と呼ばれる特別な配置をもっており、これに起因して電子のエネルギーバンドが波数空間内の特定の線に沿って4重縮退する、ディラック線ノードになっていると考えられています。これはトポロジカル物質の一種です。我々の研究室では2020年にCaSb2が超伝導を示すことを発見しました。トポロジカル物質での超伝導は非従来型になる可能性が高いため、CaSb2の超伝導状態がどのようなものか注目されていましたが、我々の核四重極共鳴測定から常圧下の超伝導対称性はs波である可能性が高いことがわかっています。
我々はこのCaSb2の超伝導が圧力下でどう変化するかを調べました。通常の金属での超伝導の場合、超伝導転移温度Tcは圧力を加えると状態密度の減少に伴い、減少します。一方、CaSb2のTcは加圧とともに増大し、約3万気圧(3ギガパスカル)で常圧の倍になったあと、さらなる加圧によって減少し、ピークを示します(図)。
このようにピークを示すふるまいは他の物質でも①磁気相などの量子臨界近傍、②構造相転移前後、③リフシッツ転移(電子状態の劇的な変化)などの場合に観測されますが、CaSb2は現在のところどの理由にも当てはまりません。今後の研究でCaSb2のTcのピークの原因や高圧での超伝導状態の詳細などが明らかになることが期待されます。
論文情報
Peak in the superconducting transition temperature of the nonmagnetic topological line-nodal material CaSb2 under pressure Journal Article
In: Physical Review B, vol. 104, no. 6, pp. L060504, 2021.