磁気微分測定
一般的に、磁化を測定する場合、試料を何らかのホルダーに載せる必要があります。このホルダーの磁化がゼロであれば試料の磁化を正確に測定することは簡単ですが、実際にはホルダーの磁化はゼロにはできません。そのため、多くの場合、ゼロではないものの空間的に均一な磁化を持つ材料を用いてサンプルホルダーを作ります。多くの磁化測定装置では、均一なバックグラウンドに起因する信号を検出しないように磁気信号を検出するコイルがうまく設計されており(微分コイルと呼ばれます)、試料に起因するシグナルだけを正しく検出できるようになっています。
しかし、このような磁化測定装置を用いる場合、何らかの理由でホルダーが空間的に変化する磁化を持つようになった場合、思いもかけない磁気信号が検出されてしまいます。特に、サンプルホルダーが特定の領域でのみ低い磁化を持っている場合、「反磁性」的な信号がこの周囲の領域で検出されてしまうことを明らかにしました。
電流を流した状態での磁気測定
より具体的に、サンプルに電流を流しながら磁気測定を行う場合を考えます。実際、電流によって引き起こされる非平衡定常状態における新しい材料特性を調べるために、このような測定を用いています。この場合、電流によるジュール効果の影響を受けサンプルは発熱します。これにより、サンプルホルダーも加熱され、局所的に温度が上昇することがあります。このホルダーが、温度を下げると磁化が増加するような磁化特性を持っている場合、局所的な温度上昇は、ホルダーの磁化の局所的な減少を引き起こすことになります。このような条件下で磁化測定を行うと、上述のように「反磁性」のような信号がサンプルの近くで現れてしまうことになります。
この「反磁性」信号は、ホルダーの磁化の温度依存性が急になるほど、大きくなります。実際、多くの材料では、キュリー・ワイスの法則に従う磁化の温度依存性を持ち、低温に行くほど磁化が大幅に増加します。このため、システム温度が低いほど、「反磁性」信号が強くなります。この効果を下の図に示します。ここでは、局所的な加熱がある場合の磁化の測定を、一般的な抵抗ヒーターを使用して行い、確かに「反磁性」的なシグナル(磁化μが負になる)が得られることがわかり、その強度は低温に向かって増強していきました(図の左側)。さらに、その結果は数値計算でも再現されました(図の右側)。
類似の効果は、様々な手法を用いた磁気測定でも起こりえます。 この論文は、電流を流した状態でサンプルの正確な磁気測定を実行するための重要な注意点を明らかにしたものであり、将来の研究に役立つと考えられます。
記事情報
Diamagnetic-like response from localized heating of a paramagnetic material Journal Article
In: Applied Physics Letters, vol. 116, no. 17, pp. 172405, 2020.