スピン自由度を持つ超伝導の実験的同定-スピン三重項超伝導多重相における新現象-

 元D3金城さん(現東北大学助教)のUTe2の圧力下NMR測定の結果が、2023年7月28日に、国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

 超伝導状態は、2つの電子がペアを組むクーパー対と呼ばれる量子力学的な波動状態として理解されます。電子にはスピンと軌道の自由度があるので、クーパー対も同様にスピンと軌道の自由度を持ちますが、今まで発見されたほとんどの超伝導体はスピンおよび軌道の自由度をもたない状態でした。一方で、スピンまたは軌道の自由度をもつ超伝導状態を考えると、わずかな外部パラメータの変化によってさまざまな超伝導状態となる超伝導多重相が期待でき、理論的研究がなされてきました。しかし候補となる超伝導体の観測例は非常に少なく、また超伝導転移温度の低さなどから超伝導多重相に由来する現象の探索は非常に困難でした。

 我々は、超伝導体UTe2の純良単結晶において超伝導多重相に由来する特徴的な超伝導スピンの回転を、複合極限環境における核磁気共鳴測定法(NMR)を用いることで明らかにしました。今回の結果はこれまで実験的なアプローチが不足していた超伝導多重相において、UTe2が理想的な研究舞台であることを示すとともに、予想しなかった新奇な超伝導状態を示すことを明らかにしました。

本成果に関するプレスリリースが公開されています

論文情報

Kinjo, K; Fujibayashi, H; Matsumura, H; Hori, F; Kitagawa, S; Ishida, K; Tokunaga, Y; Sakai, H; Kambe, S; Nakamura, A; Shimizu, Y; Homma, Y; Li, D; Honda, F; Aoki, D

Superconducting spin reorientation in spin-triplet multiple superconducting phases of UTe2 Journal Article

In: Science Advances, vol. 9, pp. adg2736, 2023.

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