不純物置換で探るYbCuS2の磁気秩序と準粒子励起の関係

我々のグループは最近、イッテルビウム(Yb)ジグザグ鎖をもつ磁性半導体YbCuS2に着目し、その磁気フラストレーションの効果について研究を進めています。これまでの核四重極共鳴(NQR)測定により、約1ケルビン以下では磁気モーメントが通常で期待されるものに比べて小さい非整合反強磁性状態であること、その秩序相内で電気的中性な準粒子が存在することを発見しました。この新奇な秩序状態、準粒子励起の起源や性質を調べるためには、不純物効果の実験が重要です。
 そこで今回、我々はYbをルテチウム(Lu)で10%置換したYb0.9Lu0.1CuS2、および硫黄(S) をセレン(Se) で10%置換したYbCu(S0.9Se0.1)2に対してNQR測定を行いました。これらの不純物置換はそれぞれ、磁性サイトの希釈(磁性希釈)および結晶格子の膨張(負の圧力)に対応します。測定の結果、両方の置換で磁気転移温度が低下することがわかりました。また、不純物置換後も中性準粒子の励起が存続することが確認されました。興味深いことに、こうした不純物置換による変化は、圧力をかけた場合に観測された変化とは逆の傾向を示しています。我々の系統的な研究から、YbCuS2の磁気秩序と準粒子励起との間に深い関係があることが明らかになりました。
 本研究成果は、2025年8月7日に、国際学術誌「Physical Review B」にオンライン掲載されました。

Reference

Hori, F; Matsudaira, H; Kitagawa, S; Ishida, K; Mizutani, S; Shirai, H; 2, T Onimaru

Lu/Se substitution effect on magnetic properties of the Yb-based zigzag-chain semiconductor YbCuS2 Journal Article

In: Physical Review B, vol. 112, pp. 064414, 2025.

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