UTe2のa軸スピン磁化率減る?減らない?問題。減るで決着!

我々は磁場方向をずらす測定法によってスピン三重項超伝導体UTe2の初期試料でもa軸スピン磁化率が大きく減少すること、わずかな磁場で超伝導スピンが偏極することを明らかにしました

超伝導は、電子が対(クーパー対)を形成することで生じる量子凝縮状態です。
重い電子系超伝導体や高温銅酸化物超伝導体などほとんどの場合、電子対のスピンは反平行に揃い、スピン自由度を持たないスピン一重項状態となります。一方、スピン自由度を持つスピン三重項状態も存在し、電子のスピンが平行になる状態で、これは液体ヘリウムスリーで実現されています。スピン三重項超伝導状態では、スピン自由度に起因してスピン一重項超伝導では見られない超伝導スピン回転や独特なスピン励起といった性質が期待されています。ただし、スピン三重項超伝導体の候補物質は10種類未満しかなく、さらに、これらの物質は磁気相と共存する場合や常伝導状態で非常に小さなスピン磁化率を示す場合が多く、超伝導特性や不純物効果について不明な点が多く残されていました。

今回測定したUTe2は、その高い上部臨界磁場 Hc2​や磁場・圧力によって超伝導多重相があらわれることから、発見当初からスピン三重項超伝導体の有力な候補とされてきました。わたしたちはこれまでに核磁気共鳴(NMR)測定によって、UTe2​がスピン三重項状態である確証を得ています。一方、初期段階のサンプルと超高純度サンプルの間には結果の食い違いがありました。具体的には、超高純度サンプルではa軸磁場においてスピン磁化率が大幅に減少するのに対し、初期段階のサンプルではそのような減少は観測されていません。このスピン磁化率の減少は、スピン三重項超伝導体における秩序変数である d ベクトル、超伝導スピンと垂直方向のベクトルが磁場方向の成分を持っていることを示していて、結果の違いは超伝導対称性が違うことを示唆しています。この結果の食い違いは、i)小さな磁場による超伝導スピンの回転、ii)微小な不純物や欠陥によるスピン磁化率の減少の抑制、またはiii)超伝導にならない部分からの信号の観測が原因と考えていました。

本論文では、初期のサンプルのUTe2でのNMRの再測定を行い、超伝導状態でのa軸スピン磁化率の減少が本質的なものかどうかを再評価しました。今回は、磁場をa軸ぴったしにかけるんじゃなくて、b軸とb軸からa軸方向に10度傾けた角度で測定し、射影成分からa軸方向のスピン磁化率を精度よく推定する手法を使いました。その結果、初期段階のサンプルでも超伝導状態においてa軸スピン感受率が減少することが確認されました。前回の測定で減少しなかったのはiii)超伝導にならない部分からの信号の観測が原因と考えています。

さらに、このa軸方向のスピン磁化率の大きな減少は非常に小さな約1.5テスラの磁場でこの減少が抑制されることを明らかにしました。これは、超伝導スピンが磁場方向に回転していることを意味していて、スピン自由度があるスピン三重項超伝導特有の現象と考えられます。UTe2はb軸、c軸方向の磁場でも超伝導スピンが回転することが観測されていて、今回の測定から回転に必要な磁場は磁気異方性と密接に関係していることが明らかになりました。

わたしたちの結果は、スピン三重項超伝導体における独特の超伝導特性と不純物の影響についての理解を深め、この分野の重要な貢献を与えたと思っています。

論文情報

Kitagawa, S; Nakanishi, K; Matsumura, H; Takahashi, Y; Ishida, K; Tokunaga, Y; Sakai, H; Kambe, S; Nakamura, A; Shimizu, Y; Li, D; Honda, F; Miyake, A; Aoki, D

Clear Reduction in Spin Susceptibility and Superconducting Spin Rotation for H || a in the Early-Stage Sample of Spin-Triplet Superconductor UTe2 Journal Article

In: Journal of the Physical Society of Japan, vol. 93, pp. 123701, 2024.

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