CsV3Sb5の超伝導状態において新奇なダイナミクスを観測

カゴメ超伝導体CsV3Sb5についての研究成果が、2025年7月16日に国際学術誌「Communications Physics」に掲載されました。

結晶構造は物質の性質に大きな影響を与えることが知られています。中でも近年注目を集めているのが、副格子と呼ばれる部分的な格子構造を内包する結晶で、トポロジカルな電子状態や拡張多極子、非従来型の超伝導などが発現すると期待されます。そのような構造の1つとして代表的なのが、原子が「籠の目」のように配列したカゴメ格子です。CsV3Sb5はバナジウム原子がカゴメ格子を形成しており、それに起因する特殊な電子状態や電荷秩序、超伝導を示すため、精力的に研究されています。

CsV3Sb5の超伝導の性質についても様々な先行研究が行われていますが、その超伝導対称性について、未だ統一的な解釈には至っていません。超伝導対称性を調べる上で強力な実験手法である核磁気共鳴(NMR)、核四重極共鳴(NQR)からは、核スピンー格子緩和率1/T1における転移温度直下のコヒーレンスピークの存在を根拠に従来型のs波超伝導が結論されていましたが、観測されたピークは小さく、測定温度もギャップ構造を議論するために十分な低温まで達していませんでした。そこで我々は超伝導状態についてより精密な議論をするため、CsV3Sb5の単結晶を用いて極低温領域までNMR、NQR測定を行いました。

その結果、ゼロ磁場下では1/T1は大きなコヒーレンスピークおよび低温での指数関数的減衰を示しました。これはフルギャップのスピン1重項超伝導の特徴で、カゴメ格子の副格子の特性と合わせて考えると、超伝導対称性をs波またはカイラルd波に絞り込むことができます。一方で磁場下では、コヒーレンスピークが抑制されるのに加え、極低温領域で1/T1Tの上昇が見られました。このような振る舞いは超伝導ギャップの存在のみでは説明できないもので、低温で発達する何らかのダイナミクスの存在を示唆します。このことから、CsV3Sb5の超伝導状態はカゴメ格子に由来する特殊な性質を有することが明らかになりました。本成果により、カゴメ格子に現れる新奇な超伝導の探求が進展することが期待されます。

Reference

Shibata, M; Takahashi, H; Oguchi, S; Kitagawa, S; Ishida, K; Yamane, S; Yonezawa, S; Li, Y; Yao, Y; Wang, Z

Novel spin dynamics in the superconducting state of kagomé superconductor Journal Article

In: Communications Physics, vol. 8, pp. 298, 2025.

Abstract | Links | BibTeX

Loading