ナノ粒子は量子サイズ効果による独自の物理的性質を示すと予測されていますが、その同定は依然として難しいものがあります。今回、我々は久保理論では説明できないナノ粒子の物性を新たに発見しました。
ナノ粒子、または量子ドットとしても知られる粒子は、直径がナノメートルオーダーの微粒子です。これらの粒子は、極めて大きな表面積や量子サイズ効果(QSE)による独自の物理的性質など、バルク体とは異なる特性を示すため、物理・化学分野をはじめとした広範な分野で研究および利用されています。1960年代初頭、久保亮五は金属ナノ粒子の物理的性質はバルク物質とは異なることを理論的に予測しました。
金属は連続したバンド分散を有していますが、原子数が減少するにつれてエネルギー分散が不連続となり、ナノ粒子にするとエネルギーギャップが開きます。久保理論によれば、エネルギーギャップのサイズはフェルミエネルギーにおける状態密度と粒子内の原子数と反比例しています。以前、私たちは様々なサイズのプラチナナノ粒子のNMR測定を行い、粒子サイズと磁場依存性に対するNMRに異常が現れる温度が「久保」ギャップと一致していることを確認しました。
今回の研究では、Pt1-xCuxナノ粒子の測定から異常が現れる温度の状態密度の依存性を調べました。結果、Ptが豊富なナノ粒子では低温での核スピン-格子緩和率 1/T1 が明確に増大しますが、Cuが豊富なナノ粒子ではこの挙動が急激に抑制されました。さらに、状態密度を変化させても異常温度はほとんど変化しないことも確認しました。これらの発見は、量子サイズ効果は久保亮五によって予測されたものより深遠な物理を含んでいることを示唆しています。今回の研究結果は、ナノ粒子の理解を深め、新たな応用展開に繋がる可能性があります。
論文情報
Breakdown of Kubo relation in Pt-Cu nanoparticles Journal Article
In: Physical Review B, vol. 109, pp. L041408, 2024.