核磁気共鳴法
(NuclearMagneticResonance)
ミクロの視点で固体の電子状態を探る!
核磁気共鳴(NMR) は、物理、化学、生物、医学といったほとんどすべての自然科学の分野で、ミクロの世界の精密なデータを提供する重要な実験手段となっています。例えば最近の医療の分野で、これまでのX線診断にとって変わろうとしている通称MRI(Magnetic
Resonance Imaging)は、まさに人体の主要な構成元素である水素のNMRを利用した医療診断装置であり、NMR技術の顕著な応用例のひとつです。またDNAの構造解析には多次元NMR法は現在広く用いられており、この手法の開拓者Kurt
Wutherich博士は``NMRによる溶液中の生体高分子構造解析の開発’’で2002年度のノーベル化学賞を受賞しました。
NMRは、外部磁場中で起こる原子核スピンのゼーマン分裂のエネルギーと等しい高周波磁場を印可して、その共鳴現象を観測する実験手法です。現在では、その原理と基礎的な実験技術は確立され、原子、分子、液体および固体の様々な研究に応用されています。
固体物性の研究においてNMRから得られる情報は、各原子核位置での局所的な磁化率であり、その大きな特徴は、物質内の内部磁場といった静的な情報だけではなく、緩和現象の測定を通じて電子や電子の担う磁気モーメントの運動といった動的な情報を同時に得ることができることです。特に超伝導や磁性を対象とした研究では、超伝導対の対称性やギャップの異方性の決定、また磁気秩序の有無や磁気構造の同定などに大いに威力を発揮しており、物質をミクロな立場から理解できるという意味において、現在物性研究に欠くことができない実験手段となっています。以下にNMRの実験からわかる物理量について解説します。
超微細相互作用
原子核スピンは、核を取り巻く電子系と相互作用をしています。
原子核スピン ( I )は、まわりの電子スピン(
s )が作る超微細磁場と相互 作用しています。その相互作用は
H = A I s ( A: 超微細結合定数)
と表されます。
K ≡ΔH/H
共鳴線のシフト ( ナイトシフト:K ):
外部磁場のもと誘起された電子磁気モーメントが作る
(静的)超微細磁場によって共鳴線がシフトする現象です。
ΔH
K = (A / μB) χ (χ : スピン帯磁率)
= A μBN(EF)
H
特にナイトシフトによるスピン帯磁率の測定は、超伝導状態の測定に有効です。
超伝導状態のスピン帯磁率の振る舞いから超伝導対のスピン状態を知ることが出来ます。
核スピン格子緩和率
(1/T1) :
電子スピンのゆらぎにより引き起こされる、核スピン準位間の遷移に関係する物理量
(電子系の動的帯磁率c’’(q,w)と関係)
通常金属 : 1 / T1 ~
N(EF)2 T ~ T (Korringa則)
T1T=一定の関係は電子相関の弱い金属に見られる振る舞いです。
局在モーメントをもつ系 : 1 / T1 ~ χT (χ~1/ (T+q) )
~ Const.
超伝導状態の緩和率:
Ns(E) : 準粒子の状態密度,
D : 超伝導ギャップ
f(E) : フェルミ分布関数
s波超伝導体の特徴
l
Tc直下にCoherence-peakが観測される。
l
十分低温で指数関数的振る舞いが見られる。
超伝導状態の緩和率の振る舞いから超伝導
ギャップの構造を知ることが出来ます。
Y.
Masuda and A.Redfield Phys.
Rev. 133 A944 (’64)
固体物理実験室ではNMR測定を用い以下の研究を行っています。
· スピン三重項超伝導体Sr2RuO4の超伝導状態の解明 (スピン状態、超伝導Gap)
· 新しいタイプの量子臨界点をもつSr3Ru2O7の臨界点での磁気励起の解明
· 磁気量子臨界点近傍に位置する重い電子系Yb化合物の磁気励起
· U系スピン三重項超伝導体UNi2Al3に見られる新奇な超伝導相の研究
· 軌道秩序を示すPrFe4P12の低温の磁気状態 etc.
興味をもたれた方は固体物理研究室 石田(居室228, 内線3783)までお越しください。
読売新聞より(1998年1月18日)